昔、大学にいた頃、私は哲学研究会というサークルにいたことがある。そこでの幹事長はたちばなくんだった。「おれは貴族だ」が口癖で、横柄な態度の男だった。私が知る限り、大学での4年間、彼女がいなかったんじゃないか。当時の哲学研究会はほとんど壊滅状態で、私たちは酒ばかり飲んで世の中を斜に構えていた。「タブーのないのがタブー」というサークルでもあった。たちばなくんは、友人の留守中にトイレの窓から入り込み、そこの電話でテレクラ(料金は2万円以上になった)にかけたりする、いい感じの奴だった。ある日、いつものように仲良くビリヤードをしてから部室に戻って仲良く弁当を食べていると、突然「お前はこれでも食ってろ」とたちばなくんは私の弁当に金魚の餌をかけた。その日はすでに、「タバコ買ってこい」と、タバコのボックスを投げつけられたこともあったので、私はすぐにたちばなくんを殴った。一方的に殴りつけて、関節技をかけたのだが、「メガネが割れる!メガネが、痛い。メガネは外させてくれ」と泣き言を言うので騎士道精神にあふれた私は一度関節技を外して、たちばなくんにメガネを外させてからファイトを再開させた。私のパンチが弱いせいか、たちばなくんは倒れようとせず、かなり長いファイトになって部室がメチャクチャになった。最終的にお互い疲れたので引き分けになったが、たちばなくんは「おまえの方がパンチが多かった。殴り足りないからもう一発殴らせろ」という。まったくもって難儀な話だが、騎士道精神にあふれた私はその申し出を受けて、たちばなくんに一発殴らせた。それ以降絶交になったが、向こうが謝りの電話を入れてから関係は改善された。でも、その後のつき合いは淡白なものになった。「おまえはいきなり態度が変わるので怖い」と部室の伝言ノートに私が書くと「おれも自分が怖いよ」とたちばなくんは書いていた。その後、たちばなくんは大学院にいったが、あの性格ゆえに孤立して、しょうがないので京都大学の大学院にいったが、そこでも孤立したため東京に戻り、博士号をとるためフランスに行ったという部分まで、風の頼りに聞いている。さて、あの大学のサイトに掲載されていた研究論文は、あのたちばなくんなのだろうか。デリダの深い知識と読みこみに、私は素直に感銘を受けた。哲学の奥深さに魅入らされる出来事だ。笑いが止まらない。
|
|