小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ

タイタンの存在者

3.城を出て中心街を歩く

城を出て中心街を歩く。街道はいつもどおりで、百年前にあった小川はもうない。いくらかホッとした。地上700階のレストランで食事をとる。時々、大昔のスペースシャトルや宇宙ステーションが静かに窓際を通りすぎていく。何かがぶんぶんいっている。あれはハエではないか!大昔に絶滅したはずの!突然それはポトリと落ちて、赤ワインのグラスに浮かび上がった。そして音もなく床が崩れ落ちた。彼も、着飾った周りの客達も、店のロボット達も一瞬にして宇宙空間に放り出された。下にあったはずの地球は、黄色い炎を噴きだして美しいばかりにコナゴナに崩れていき、レストランは軌道を回る。どこの軌道に?彼は落ちていく。地獄へ・・・太陽の墓場へ・・・破滅の深淵へ・・・・・・。

追跡者のミロは、中枢部へ通じている公衆端末ボックスに入った。そこの住民情報へつなぎ、名前を入力する。
 ヨ・ム・レ・イ。
 戸籍番号・・・498762819009089。
 ピッ・・・。
 住所・・・城。職業・・・王。
 ピ------------------------。
そこから先は情報が出ない。
「城?」
ミロは端末ボックスを出た。そこは公園の中にある円形の大きな広場だった。遊戯用のロボットがいて、子供達がそこに群がっていた。中心街の方を向くと、そこには高層ビルが立ち並び、それらの中心に、光り輝く巨大な城が堂々とそびえていた。城の下の方はかすんで見えた。城壁はなめらかで白銀に輝いていた。いくつか垂直に立ち並ぶ白い塔が、神聖な印象を強めていた。巨大な塔が一つ、雲を突き抜けて、水晶玉のような星をいくつも瞬かせていた。
ミロはしばらく立ちつくした後、来た道を帰ろうとしたが、耳につくサイレンと共にどこからか感情のない声が聞こえてきた。
「王の情報を引き出すことは法律で禁じられている。命が惜しければ、ただちに君の名前と戸籍番号を端末機に入力せよ」
彼は再び端末ボックスに入り、名前を入力した。
 ク・ロ・フ・ツ。
 戸籍番号・・・374827492882744.
しばらくは何も起こらなかったが、突然警報が鳴り響き、赤いランプがボックス内に点滅し、床がガタガタ揺れだした。端末機は、死霊のような声を出した。
「すでにクロフツは・・・別の場所に存在している・・・。おまえは侵入者だ・・・。王の命令により、今からおまえを処分する・・・」
唖然とし、すぐに身の危険を感じて外に出ようとしたが、ドアが開かない。膝に装着してあったハンドガンを取り外し、強度を最大にして撃った。バッと火花が飛び散ってドアがふきとんだ。外のサイレンはまだ鳴っていた。
「そこを動くなよ」
ボックスが言った。広場から人影が消えていた。ミロは全速力でその場から離れた。ゼーゼーいいながら後ろを振りむくと、地面が熱を出してボックスはボロボロと崩れていった。サイレンはまだ続いている。ミロは出口をめざして公園の道を走った。人々は上を見上げている。上空にとてつもなく巨大なスクリーンが漂っていて、ミロの顔が浮かび上がっていた。
「排除せよ。排除せよ」
本当におれを殺そうとしているのか?ミロは上を見上げながらベンチに座っている老人の前を通った。するとその老人は、渾身の力をこめて持っていた杖を彼めがけて振り下ろした。杖は顔面を直撃し、ミロはもんどりうって地面に倒れた。さっき広場にいた子供達が、彼に向かって石を投げつけはじめた。大きな音がしたので振りむくと、公園の警備員がミロを標的に銃を撃っていた。ミロは必死の思いで公園から逃げだして、中心街行きの道路に乗った。高速で移動する道路が彼を運んでいく。社名やポスターを塗りたくった、道沿いにあふれている看板が、全て消えて一瞬のうちに彼の顔のアップや全身像に変わっていった。黒い道の端で、ぼやけた白い街頭が、大勢の通行人を照らしている。通り過ぎる人、すれ違う人に顔を見られないように、ミロは襟で顔を覆った。一直線に道はのびている。そのはるか前方には、数万もの高層建築群の集合体レニンヨークの中心街。その中央で、壮麗な城が霧のように霞んだ周りの建物を背景にして、光を瞬かせながらたたずんでいた。

小説「タイタンの存在者」