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小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ
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目覚めてしばらくして、ワタシがブルーシャドー城にいるのに気づいた。そうだ。アイテムを選びながら、戦争の準備をしよう。アイテムの倉庫で「流星月華の護符」を見つけた。魔窟の竜騎士団との戦いに勝利して手に入れたアイテムだった。エカテリーナと一緒に旅をしていた時のことだ。あれからだいぶ時間がたった。ワタシはドラゴンスレイヤーに護符を貼りつけて攻撃力を上昇させた。ワタシはエドゥーン城に向かった。柴虎王が近づいてきた。その顔はここからはよく見えないが、笑っているに違いない。
ワタシ:元気か? 柴虎:寒くて調子悪いよ。熱がある。風邪をひいたみたい。 ワタシ:大丈夫か? 柴虎:うんうん。そういえば、ドラゴンスレイヤー見つかった? ワタシ:うん。 柴虎:やったぜ! ワタシ:柴虎君。君は本当にこの世界を愛しているんだね。 柴虎:は? ワタシ:なんでもない。 柴虎:おれ、今どこにいるか分かる? ワタシ:いや。 柴虎:北海道まで高飛びしてやったぜ! ワタシ:スゲ。 柴虎:おれの実家どこだと思う? ワタシ:東京? 柴虎:ぶはははははははははははははははははははは! ワタシ:今いる店に、指名手配の写真はあった? 柴虎:ないない!ようし勝負だ! ファンファーレが鳴り響く。真紅のマントをなびかせて柴虎王が現われた。エドゥーン城の広場には全ての兵士が勢ぞろいしていた。味方の数は5千人。敵の数も5千人。全世界を巻きこんだ戦争の決着戦が始まろうとしている。 柴虎:最後の戦いだ! 柴虎王の絶叫に反応して軍勢が雄たけびをあげた。おびただしいほどのプレイヤーの数だった。地面が見えなくなるほど群集がうごめいている。ワタシたちは戦場に向かった。すさまじい大行進だった。砂漠の入口で柴虎王が止まった。おびただしい数の魔王軍が砂漠にあふれかえっている。砂丘の向こうに魔王の城が霞んで見えた。次々と花火が打ちあげられた。最後の攻城戦がはじまった。敵が津波のように押しよせてきた!思わず息を飲む。 (・∀・):キタ─wwヘ√レvv─(゚Д゚)─wwヘ√レvv─ !! みなよ200:ワタシしゃん。あたしら生きて帰れましゅか? ワタシ:大丈夫。 まさらっき:行くぞゴラァッ! マキマティコ:オーッ! その瞬間、画面が真っ白になった。柴虎王がスーパーレアアイテムの「真昼の太陽」を使ったのだ。ベータ版にしか出現しなかったアイテムで、これを使うと全てのフィールドが5分間もなにも見えずに真っ白になる。究極の目くらましだった。見えないのはフィールドだけで、メッセージウインドウは見ることができた。アイテム選択画面や体力の数値などの画面も見ることができた。 柴虎:今だ!行け! ワタシ:全軍、進め! 柴虎軍の将軍たちが「大地の声」を使って仲間を鼓舞する。 イリミジュ:最強の魔法を使うからみんな下がって! まさらっき:魔術師をやっつけた! みなよ200:うきゃきゃきゃ!強烈なの行っちゃうでしゅよ〜♪ 柴虎:もっと早く!疾風の呪文をかけろ! イリミジュ:進め!進め! しばらくしてパンチョ・ビラの声が聞こえた。 パンチョ・ビラ:先行部隊、城門に達しました! 柴虎:よし!突破しろ! なにも見えない5分間はとてつもなく長い時間だった。光が消えた。フィールド画面が再び見えるようになった。我が軍は戦争開始から一歩も進んでいなかった。恐慌状態に陥った敵軍は、見えない敵を攻撃していた。攻撃の対象はほとんど自分の部隊だった。自分の体力が減るのに気づいたプレイヤーたちは闇雲に攻撃をしかけた。テレポートして逃げることで自分の持ち場を離れるか、それともその場に留まって守り抜くか、かなりの葛藤を相手に与えた。我が軍の中には、柴虎王の命令を鵜呑みにしたプレイヤーが何百人もいたが、彼らはおとりとしていい刺激となって敵軍をかき乱すのに貢献していた。敵軍は同士討ちをしつづけて、アイテムや魔力を際限なく消耗した。どこからともなく聞こえる悲鳴や剣を振り回す音や魔法の炸裂音が、恐慌をさらに加速させた。かなりの数の犠牲者を出し、陣形も混乱していた。光が消えてからも、敵軍はしばらく同士討ちをしつづけていた。味方の出した強力な魔法によって次々に敵軍が倒れていく。同士討ちに気づいた瞬間、さらに混乱とショック状態がまきおこった。 イリミジュ:進め!進め! イリミジュのかけ声を契機に我が軍が怒涛のごとく押しよせていく。今まで進軍を押さえつけていただけに抑制がきかない。総力戦だ。雷撃。炎の嵐。氷結の吹雪。魔の波動。大地に魔法が炸裂しつづけている。敵味方関係なしに強力な呪文が兵士たちに襲いかかる。戦士は剣を振るい、エルフは弓を射る。ドワーフは斧をふりおろす。血の匂い。まきおこる砂の匂い。混沌が混沌を呼び、収拾がつかなくなっていく。破壊衝動のおもむくままに攻撃をしつづけていく。渦まく軍勢が魔方の光を浴びて輝きつづけている。ワタツが囲まれて集中攻撃を浴びているのに気づいた。攻撃力のないワタツは反撃することができない。ワタシは敵軍に突っこみ、剣を振りまわして蹴散らしていく。ワタツは倒れたままだ。 ワタシ:大丈夫かヒッキー! ワタツ:おう、ヒッキー。わしはもうだめじゃ。ほれ。アイテムじゃ。 ワタツは最高級の体力回復ポーションを差しだした。 ワタツ:武運を祈るぞ!ヒッキー! ワタツがやつれ果てた顔つきで退却した。テレポートスクロールを使わずにフラフラと歩いていく。途中で敵に攻撃を受けるが、なんとか踏みとどまって歩きつづけていく。最後まで我々を援護するつもりなのだろう。しばらくしてワタツが視界から消えていった。ワタシは振りかえり前を見すえる。砂漠の砂煙のせいで城が見えない。まだまだ先のようだ。進んでも進んでも敵ばかりだ。いくら倒してもきりがない。前方の敵の強固な陣形と背後から押し寄せる味方にはさまれて息が詰まりそうだ。ワタシはどこにいる?ワタシはどこにいる?ワタシはどこにいる?画面の中に、同じ外見をした戦士が無数にいるので、自分を見失った。攻撃しているのか攻撃されているのかまるで分からない。長い戦いだ。乾いた大地がオレンジ色に染まっていく。群集が暗くうごめいている。敵、味方がさらに判別しがたくなっていく。イリミジュの姿を見つける。引き寄せられるようにイリミジュの後を追っている自分に気づいた。イリミジュの姿を目にすることでかろうじて平静を保つ。ホワイトエルフの白い体が、透明なスカーフが戦場に舞っている。まるで夢を見ているようだ。 イリミジュ:進め!進め! 砂塵の向こうでイリミジュが味方を鼓舞している。ワタシたちはイリミジュの進む方向に向かっていく。イリミジュに率いられた軍勢が、だんだん大軍となっていく。ワタシたちは一団となって、続々と押しよせる敵を蹴散らし、城壁を揺るがしていく。 イリミジュ:城門が堅い! ワタシ:柴虎!柴虎! 柴虎王から返事がない。 柴虎はゲームにログインしていません。 無常なメッセージがメッセージウインドウに流れた。一瞬、血の気が引く。柴虎王の身になにかが起こったのだ。 イリミジュ:柴虎がゲームに接続していないわ! パンチョ・ビラ:どうする? ワタシ:このまま進もう! 地中から巨大な砂煙が噴きだした。地割れと共に巨大なドラゴンが目の前に現われた。攻城戦の時にだけ呼び出すことのできる最強の召喚モンスター、アークドラゴンだ。全身が真っ黒い鱗に覆われて、邪悪な光沢を放っている。体からあふれ出る死の波動がワタシの体を削りとろうとしている。波動が強くてなかなか前に進めない。ワタシは武器をドラゴンスレイヤーに持ちかえて突進した。ドラゴンが飛び上がった。剣が空を斬る。そしてワタシに向かって炎を吐いた。かろうじてワタシはよけた。灰になるのは回避したが、全身が燃え上がっている。黒焦げになってワタシは倒れた。イリミジュが両手を挙げた。無限の魔力が発動し、イリミジュの体が光りはじめた。砂漠にいくつもの波紋が広がり、ランランと光り輝く複数の目を持つ頭部が地上に浮き上がってきた。細長い手足が伸びて、大地を踏みしめた。巨大グモのクネロスだ。大群が地中からあふれだした。巨大グモたちがアークドラゴンに向かって襲いかかった。おびただしい数のクモがドラゴンの全身にまとわりつき、鋭い牙と強力な消化液で攻撃を加えていく。鱗を喰らい、肉を喰らい、内臓を喰らう。浮き上がって逃れようとしたが、喰らいついたまま離れようとしない。翼がちぎれ、アークドラゴンがゆっくりと落下した。泥と腐臭が渦まく地獄の谷間に沈んでいく。2度と再び上がってくることはないだろう。クモの群れも、ドラゴンの後を追うように地中にもぐりこんでいく。城門の前に巨大な空間が広がっている。城門を守る敵は誰もいなかった。イリミジュが、倒れたワタシに復活の呪文をかける。ワタシは起き上がった。ワタシたちは魔王の城に入った。 ワタシ:こんな場所、来たことがない。部屋が変わっている! 突然、イリミジュが消えた。なにかの罠が作動したのか。サーバーの接続が切れてしまったのか。 パンチョ・ビラ:罠だ! 次々に仲間が消えていく。部屋の床に、テレポートの罠が設置されていたのだ。罠を踏んだとたん、どこかに飛ばされる仕組みなのだ。どこまで進んでもイリミジュの姿が見えない。一瞬で回りの景色が変わった。部屋にいるのはワタシ一人だ。ワタシも罠にかかったのだ。一人で城を徘徊する。来たことがない場所なので、どこに進んでいいかわからない。ワタシは以前、マスターの渓谷で手に入れた彷徨えるルビーを取りだして、地面に転がした。ルビーが部屋の中をどこまでも転がっていく。ルビーが部屋を出た。ルビーの通った跡が、明るく輝いている。迷宮の出口まで案内してくれるアイテムだった。気づくのが遅かった。最初からこれを使えばよかったのだ。いくつもの部屋を抜けたところでワタシは立ちどまった。部屋の中心で、ルビーが粉々に砕けちっていた。魔術師たちが目の前に立ち並んでいる。 ウルフパック:この時を待っていた。 魔術師たちは呪文を唱えた。6体のウェアウルフが現われた。彼らは夜になるのを待っていたのだ。 ウルフパック:おまえは今までで一番なじみのある敵だったよ。 ウェアウルフたちが向かってくる。その時、ワタシとウェアウルフの間に、一人の戦士が突進してきた。0だ。 0:死ね。 0がワタシに斬りかかった。ワタシは一撃をくらってよろめいた。 0:死ね死ね死ね 0はウルフパックたちに斬りかかった。ウルフパックたちは0に応戦した。0のこの行動は自殺行為だ。0は自分の行動を理解しているのだろうか。逃げろ!逃げろ!モニターに向かってつぶやきつづけている自分に気づく。0は猛然と剣を振りつづけていく。満月の光を浴びて、狂気の鎧が妖しく輝いている。狼の絶叫が聞こえる。0はウェアウルフの一人を倒した。逃げろ!逃げろ!死んだウェアウルフは血まみれになって元の老人の姿に戻った。体勢が整ったウェアウルフたちは0をとりかこんで一斉に牙をむいて襲いかかった。 0:死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 瀕死状態の1体のウェアウルフが隊列から下がる。0の猛攻はとどまる所を知らない。 0:死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね しかしウェアウルフの勝ちだった。いくら0のプレイ時間が長くても、共同でみんなと力を合わせて戦ったプレイヤーの方が強くなるようにこのゲームはできているのだ。ウルフパックの牙が強烈にヒットした。0は血まみれになって地面に倒れた。 0:死ね 0は倒されてもなお、言い続けた。 0:死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね リーダーのウルフパックが滅死のスクロールを使って0を灰にした。0が土に返っていく・・・。あまりにも静かな最期だった。こうして正体不明のまま、0の伝説は終わりを告げた。 まだウェアウルフたちは、0の攻撃の後で体勢が整っていない。死んだ仲間を生き返らそうと呪文を唱えている。ワタシは剣を抜き放った。不意をつかれたウェアウルフたちが退いた。ワタシは剣を振りまわして相手の懐に踏みこんだ。無数の巨大な牙や爪がワタシに襲いかかる。息もつかせぬ連続攻撃だ。さっきの0の戦いを再現しているかのようだ。おかしい。向こうもかなりのダメージを負っているはずなのに、どこまで斬りつけてもウェアウルフたちは倒れようとしない。ハッと息を飲み、全身が凍りつく。今夜は満月だ。野獣の覚醒だ。自然を味方につけた強力な生命力だ。みるみるうちに囲まれて、獲物であるワタシは切り刻まれていく。扉からイリミジュが現われた。疾風のように走りこみダガーを振り回す。ウェアウルフたちがバラバラとはじけ飛んだ。ワタシは息を吹きかえす。動きの悪いウェアウルフに狙いを定め、ワタシは斬りつけていく。イリミジュは走り回りながら、確実に敵にダメージを与えていく。満月を浴びたウェアウルフたちも速さでは負けない。イリミジュに追いつき爪で切りさく。ワタシは背後から弓矢を撃って援護する。イリミジュが攻撃魔法「雷神の怒り」を発射した。まともに食らった1体のウェアウルフがもんどりうって倒れた。ウェアウルフがイリミジュを囲いこみ、一心不乱に腕を振りまわす。ワタシは飛びかかってイリミジュに対する集中攻撃を防ごうとする。狂乱の攻撃をかろうじてよけたイリミジュが「竜神の矢」を撃ちこんだ。矢が突き刺さったウェアウルフが、苦痛の叫び声を上げながら倒れた。イリミジュが「破邪の波紋」を放った。ウェアウルフの動きが鈍くなった。ワタシが次々に斬りつけていく。1体のウェアウルフが絶叫しながら血の海に沈んだ。魔法の効果が切れて、敵の動きが速くなる。まだまだ余裕のありそうな1体のウェアウルフが、ワタシめがけて襲いかかる。1体1の斬りあいだ。隙をついてこちらの懐に飛びこんでくる。相手の間合いだ。電光石火にくりだされた爪の連続攻撃をかろうじてかわす。剣を振りまわし、相手の牙をはね返す。しつこい連打をくらい、思わずのけぞる。防御しつつも動きを見切って剣をたたきこんでいく。相手の動きが止まった。壮絶な打ちあいだ。野性の本能に身を任せたすさまじい攻撃を次々に浴びていく。ワタシの剣が舞っている。ワタシも野性に帰っていく。ワタシの体力がなくなる寸前で、相手が力尽きて崩れ落ちた。回復する間もなく、背後からウェアウルフが襲ってきた。ワタシは振りかえりざまに斬りつけた。向こうの攻撃は空振りし、ワタシの剣は確実に相手をとらえた。真紅のマントが、倒れたウルフパックに覆いかぶさった。イリミジュが「昇天」の呪文を唱えた。ウェアウルフたちが土に返っていく。 ワタシ:回復系のアイテムはあるか イリミジュ:まだあるわ。ないの? ワタシ:今の戦いで全部なくなった。 イリミジュが全回復ポーションを7つ放り投げた。 イリミジュ:それ使って。 ワタシ:THK ワタシは立ち上がった。目指すは玉座の間。部屋の奥にあった扉を開けると、螺旋階段がどこまでも上にのびていた。暗く、冷たい。地獄の牢獄の底にいる気分だ。 イリミジュ:この塔を登りきれば魔王がいるわ。 ワタシ:勝てるかな? イリミジュ:2人しかいないのよ。私たちでは無理ね。そのうち私たちの仲間が来るだろうから、少しでも奴にダメージを与えるのよ! ワタシは傷ついた体を引きずり上げるようにして階段を一段一段登っていく。もう全身の感覚がどこかへ行ってしまっていた。塔を登りきり、ついにワタシたちは玉座の間にたどりついた。真紅の絨毯が長く続いた先に玉座があった。魔王が静かに座っていた。暗黒波が邪悪に渦巻き、立っているだけで体力がどんどん削られていく。 魔王が立ち上がり、両手を挙げた。魔法陣が光り輝いて魔王を包みこんだ。魔法陣を貫くいくつもの光の柱から現われたのは、邪悪の象徴、暗黒のドラゴン。魔王の変身した姿だった。一瞬、画面がゆらめいた。魔王の体の周りの時空が歪んで見える。この部屋に不釣合いな大きさだった。尻尾が壁を突き抜けている。今まで見たことがない巨大な姿だった。突然、死がやってきた。ドラゴンの首が、体に似あわぬ猛烈なスピードで私に向かって伸びた。巨大な暗黒の牙がワタシの体を切りさいた。痛恨の一撃だ。逃げたくても逃げる場所がなかった。ワタシは波動を浴びて床に崩れ落ちた。イリミジュがワタシに向かって復活の呪文を唱えた。ドラゴンが襲ってくる。呪文を唱え終わる直前にイリミジュが倒れた。イリミジュも死んだのだ。2人とも死んでいる。暗黒の波動が2人を包み、体を蝕み、灰にされようとしていた。 イリミジュ:ごめんね。 死にながらイリミジュがあやまった。ワタシたちは灰になりつつある。復活の呪文も効かない、文字通りの死がすぐそこまできていた。 ワタシ:ありgとう 死ぬ直前にイリミジュにひとこと礼を言いたかった。ここまで来れたのは彼女のおかげなのだ。急いだのでタイプミスをしてしまった。脱力感が全身に広がる。どこまでも続く暗闇がワタシを覆っていく。これが死というものだろうか。 イリミジュ:そろそろ落ちるわ。乙。 ワタシ:乙。 その時、一瞬の閃光が走った。いくつも重なった魔法陣が部屋中に広がっていく。何種類もの魔法が一度に発動したかのような轟音が聞こえた。強大な魔法が魔王にヒットした!ドラゴンがのたうちまわっている。咆哮が大きくとどろく。柴虎王とみなよ200とパンチョ・ビラが部屋になだれこんだ。 みなよ200:2人ともシンデルでしゅ! 柴虎王とみなよ200が復活の呪文をかけた。イリミジュとワタシは起き上がった。仲間が回復の呪文をかけてくれたので、ワタシの体力が急激に回復していく。 ワタシ:おお! 柴虎:すまん!ネット喫茶が停電して近所のネット喫茶探し回ってた! みなよ200:ぬはははははは! パンチョ・ビラ:ゲッ!デカイ! 柴虎:よし!いけ〜! ドラゴンが炎を吐いた。致命的なドラゴンの炎をまともに受けて、パンチョ・ビラが消滅した。復活の呪文をかける暇もなく、一瞬で灰になった。首をのたうちまわしながらドラゴンが絶叫する。炎の中で咆哮がどこまでもこだまする。ワタシたちは悪夢をふりはらうかのように攻撃をしつづけた。アイテムが切れた瞬間に即死だ。いつの間にか部屋が消えている。強大な魔法をかけたのかかけられたのか。無数の魔法陣が暗闇に浮かんでは消えていく。ワタシは炎に包みこまれた。魔王の炎は普通のプレイヤーには耐えきれない強さだった。 みなよ200:さらば! みなよ200が部屋から消えた。ドラゴンスレイヤーには魔王の炎に対する耐性がついているようだった。頭を狙うのは危険だ。炎が途切れた瞬間を狙って、首や肩口に斬りこんでいく。決死の覚悟で何人ものプレイヤーが炎をかいくぐり、ワタシたちにアイテムを渡したあとに逃げていく。 柴虎:ああ、もうだめだ!後はたのんだ! 深手を負った柴虎王が、ワタシに最後のアイテムを渡して、テレポートでどこかに消えた。残りの仲間はイリミジュだけだ。 イリミジュ:もうだめ! ワタシ:ここで終わりだ! イリミジュ:あなたの価値を信じているわ! イリミジュが勝ちを価値と打ち間違えていた。イリミジュが魔法陣の輝きと共に消えた。魔王とワタシの一騎打ちだ。ワタシは斬りつづけた。魔王は炎を吐きつづけた。魔王はいつまでも倒れようとはしなかった。 私:これがやりたかったんだ。 ワタシの頭の中で私の声が聞こえる。 私:ボロボロになりたかった・・・。なにかに全力で立ち向かうような・・・。本物の終わりが見たかった・・・。終わりの後には始まりがある・・・。再生を信じて本気で戦えるような場所が必要だった・・・。ここだ。・・・ここだったんだ。 メグちゃんSOS:救援物資よ! 何人もの仲間たちがワタシにアイテムを渡すために、次々に地獄のようなこの部屋に突入してくる。ワタシに近づく前に倒れていく者も何人もいた。 蕎麦王子:これを使え! なちゅらーる:ganba! ドフリス:がんばれ!あと少しだ! 今まで一度も会ったことのないプレイヤーが何人もいた。アイテムを渡すと同時にワタシに声をかけて退散していく。 ドラグーン:ウラウラウラウラウララララララ!最高級の体力回復ポーションだ! 破滅の炎をかいくぐりながら魔人戦士ドラグーンが現われた。ワタシにありったけのアイテムを渡した。こんな場所までやってきて、古いパソコンで大丈夫なのだろうか。 ドラグーン:新しいマシンを買ったぜ!グラフィックボードも最新だ! ドラグーンが魔王を斬りつけた。2、3回斬りつけた後、すぐに後ろに下がった。 ドラグーン:だめだ!強いなこいつは!任せたぞ! ドラグーンが魔法で消えていった。 まさらっき:行け〜! みなよ200:がんばるでしゅよ〜! ワタツ:気合じゃ〜! どこかで仲間たちがワタシに声をかけている。どこまでも続く長い戦いだった。全力をつくしてワタシは剣を振りおろす。一つ一つの剣の攻撃が、魔王を打ち滅ぼす最大の力を放っている。魔王の外見が揺らいでいる。形が定まらなくなっていく。見たこともない形が現われては消えていく。力をふりしぼり剣をたたきつける。なにも聞こえない。なにも見えない。自分の姿も消えていく。それでもワタシは剣を振りつづけた。ワタシは攻撃をやめようとはしなかった。自分の攻撃は敵にあたるようでいて、自分にもあたっていた。自分を切りきざんでいるかのような錯覚を覚えた。剣を振る速度や、握る握力が、不確かなものになっていく・・・。ワタシはもはや戦士ではなかった。個人の限界や役割からも遠く離れていた。全ての魔法が解けていく・・・。1ドットの点。情報の一要素に戻り、ワタシは世界を駆けめぐる。ワタシという引数の中に情報が満たされていく。あらゆる世界で作りだされた関数を感じる。関数からはじき出された返り値が、ワタシの中に流れこむ。引数、関数、返り値、それらはみなコミュニケーションだ。世界の中に、ワタシがいた。ゆらめく幻影の中で、魔王の姿がはっきり見えた。ワタシは力のかぎり、剣を振りおろした。全身全霊を込めた必殺の一撃だった。魔王がのたうちまわっている。苦痛に顔をゆがめ、痙攣しながらもがいている。最後の力をふりしぼって口を開いたが、そこからはなにも出てこなかった。目から輝きが失せていく。力なく長い首を降ろし、ゆっくりと横に倒れた。魔王が滅んだ。ワタシは滅死のスクロールを使った。巨大なドラゴンが静かに消えていった。仲間たちが部屋に集まってきた。 ワタツ:最後はなんだったんじゃ?魔王軍の人間までワタシを助けていたぞ。 イリミジュ:あいつは敵だったのよ。本当に最後の敵だったのよ。 まさらっき:知ってるか?これリアルタイムでネット中継してるんだよ!おれたちの戦いをみんなが見てる! みなよ200:ぴーす!ぴーす! メグちゃんSOS:・・・やめなさいよ (・∀・):ヨカッタ つД`)・゚・。・゚゚・*:.。 柴虎王が絶叫した。 柴虎:やった!ついに!ついにたおしたんだ!ハハハハハはハハハハハはハハハハハハハハハハハハハハハははあはハハハハハハハハハハハハハハハハハハはあははあははあははあは母はハハハハハははあはははあははははあはははははははははははははははははははははははははははははははははははははあはっはあはははははははあはははははあっははははははhっはははははっははあははhhhっはあはh! その瞬間、世界が崩壊した。 小説「ナイス・ドリーム」 |
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