小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ

男は一円玉を


ふらふらと電信柱が動いてやがる・・・。街灯の光はくるくる回っているみたいだった。暗い気持ちを酒の恍惚とその後に来る吐き気で紛らわせようとしたが駄目だった。この男なりに生きてはいたがこの男なりの幸せは来ないようだった。頭上に電車の通る音が雷鳴のように響いた。なぜかこの男にはそれが寂しく聞こえた。あ、あの、光。ピカピカ光ってやがるのは何だろう。それはずっと見えないくらい遠くの暗闇にあった。男はその光に魅せられるように一歩一歩前へ進んでいった。「なんだよ」男はつぶやいた。「そんなに光るなよ。何でそこにいるんだい?」光っていたのは一円玉だった。男はかがんでそれを拾った。「どうしたっていうんだよ・・・」その男の心にみすぼらしさとむなしさがつかの間漂った。何かこの一円玉の小ささがそうさせているのだった。男は力なくガード下の暗がりで立ち止まっていた。失望感がどこからかやってきた。今までの月日の思い出に涙が出そうになった。男は一円玉を握りしめ、そしてまた、手を開いた。一円玉はまだそこにあった。拾ってしまった後悔と、なぜ拾ったのかという考えがこの男を不安にさせた。そしてどういうわけか、捨てることはできないのだ。「ピカピカしてやがんなあ・・・」男は一円玉を目の前にかざした。この男の心に、今までこの男なりに生きてきた何かがその瞬間届いた。この男はその一円玉を、小さな小さな硬貨を、やがて服の内ポケットに入れたのである。そして男はもう一度、歩き始めた・・・。