小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ

つかの間の眠りの前に


つかの間の眠りの前に以前考えていたが、こんな話はどうだろう。ここに、眠れない一人のサラリーマンがいて、内科から精神科に回されたばかりだ。ためしにセラピーの怪しげな集団療法を受けるくらいまで、自分の精神状態に自信を持てなくなってしまうわけだが、そこに若い女がいて、そのうち恋人になる。「君、もう少しそばに寄らないか?キスするから」というわけで、彼女の部屋に行くわけだが、興奮の夜がすぎても二人は眠ることができない。そのうち身の上話が始まる。小さい頃から話しはじめるわけだが、延々と続いていくので、話が尽きないはずだったが、そのうち現在に行き着いてしまう。「で、それから?」「それで、ここにいるのよ」「おれもだ。話が尽きた」「この程度で私たちの人生なんて、語り尽くせてしまうのね」「まるで夢から覚めたみたいだ。今見た夢を忘れてしまって、もう思い出すことができない」「そうね。私たち、夢から覚めているのね。夢と現実の空想が違っているところは、夢の中だと頭がさえてないから、見たことを本当のことだと信じられるところだと思う。私、何度も夢を見るの。一晩中、ずっと・・・」「・・・。今日は会社休むよ」「私も。ねえ?今から寝ない?」「・・・まだする気なの?」「そうじゃなくて、寝るのよ。夢を見るのよ」2人で睡眠薬を飲んで夕方まで寝て、夜になったらSEXをする。どうだろう。あの時、今までにないくらい、安らかに眠れたような気がする。集団療法が効いたのか。精神安定剤が効いたのか。それとも延々と続いた話のせいなのか。とてもいい夢を、とてもすばらしい夢を見たような気がする。でもその夢がなんであるのか、今はもう思い出せない。そうか。彼女のせいなのか。私はもう、不眠症から醒め、朝から晩まで、それを過ぎて深夜まで、会社で働いている。満員電車で帰宅中、会社での一日を思い浮かべると、まるで夢のような気がする。あれから彼女はどうなったのか。彼女の不眠症は治ったのだろうか。まるで夢から覚めたみたいだ。今見た夢を忘れてしまって、もう思い出すことができない。