小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ
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私はどこへ行くのだろうか。暗い、冷たい。どこまでも落ちていく落ちていく・・・。今までの現実から一体何が残ったというのだ!あっ、光が見える。あれは天国だ。暖かで穏やかで平和な所・・・。だが、私に居場所はあるだろうか。そこにいれば私は幸せだろうか。天国にいても、私は生きていることにはならないだろう。クロフツが言ったように、私は時間や場所に縛られている存在者だ。
幸福は、神の意志とは無関係なのだ。 「ああ、気がついたようですよ。よかったぁ。もうだめかと思いましたよぉ」 ニヨロークの大げさな声が聞こえる。あいかわらずうるさい奴だ。なんだかえらく騒がしいな。 「よし、そこのを注射して。そう、それ・・・お、おい!ちょっと待ちなさい!この患者は絶対安静なんだ」 「急用なんだ。おい、ヨムレイさん、聞こえますか?」 きびきびした声が聞こえる。 「警察の者ですが、クロフツ事件について話がありまして・・・。クロフツは逃亡し、先ほど転移装置で死亡しているのが発見されました。私どもとしましては、無事にあなたを保護できて、ホッとしております。これからの予定ですが・・・お、おい!」 「さあ、もういいだろ。さっさと出ていってくれ!さあ、みんなでこいつらを追い出せ!」 がやがやと騒ぎがあって、やがて静かになる。 「いやあ、驚きましたよ。まさかうちのボスがあんな大事件に関わっていたなんて。いやあ、なにしろ国の施設を悪用したんですからねえ。前からあの人は少し変だと思っていましたけど・・・。宗教だなんてねえ。まあ、これからは、何かにつけて忙しくなりそうですよ」 「君、もう少し大事なことを話そうじゃないか」 「大事なことってなんです?」 「君は少しおとなしくしてなさい。ヨムレイ君?聞こえるかね?私はこの病院の院長だ。実は君に無断で勝手なことをしてしまったんだ。この病院に入院している君の奥さんのことなんだけどね。君が土星の衛星に行ったきり戻ってこないと、奥さんはこのニヨローク君から聞き出したんだ。そうしたら、ぜひ私も連れてってほしいと彼女がニヨローク君に頼みこんだんだ。病院側としても、まだ完治していない患者にそんなことをさせたくなかったし、なんでも生きて帰った者は一人もいないそうじゃないか」 「あ、ニヨロークです。聞こえますか?はじめは奥さんの言ってることに、みんな反対したんですよ。でも気が強くて・・・。それで、いろいろ手続きをふみまして・・・タイタンに飛ばしてしまったんです。奥さんはあなたと同レベルの技術者だから、能力的には何の問題もなかったんです。それでいろいろ騒ぎが大きくなって、警察が動きだして、いろいろと不正が明らかになったんですが・・・」 ・・・・・・なんだって?それで、妻は・・・・・・。 「心配せんでもいい。奥さんは無事だ。まあ、我々を怒らんでくれ。君が気づいていたかはしらんが、最終的に君を救ったのは彼女だったんだよ・・・・・・・・・」 彼は真っ白い部屋に寝ていた。 「おはよう」 隣のベッドに寝ていた彼の妻が言った。 「戻ってきた・・・。ああ、おまえ、ずっと今まで・・・」 「私、タイタンに行った時の記憶がないのよ。私達、あそこで何をしていたのかしら」 「・・・・・・夢を見ていたんだ」 彼は目をつぶりもう一度ねころんだ。しばらくして妻の顔を・・・・・・。 「私、赤ちゃんができたの・・・」 雪が降りはじめた。ここレニンヨークに冬が来ようとしていた。この都市の冬は特に冷える。議事堂関係処理責任者のクロフツは、ガラス1枚隔たれたデスクの中でふるえた・・・・・・。 「いやあ、今日は冷えますね」 クロフツは、はっとして前方を見上げた。長年の勤務のせいで、現実と空想の区別がつかなくなってきていた。 リターン。 小説「タイタンの存在者」 |
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