小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ
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城を出て高速道路を最新式の自動車で走る。最新式?50年前に、車両の道路での使用は禁止されたはずだ。助手席には彼の妻がいる。ふと気がつくと、人々はいつもの移動式の道路に乗っていて、彼だけが自動車を運転していた。彼と同じスピードで人々は移動している。通行人には生気がない。移動しているうちに、だんだん年老いていくようだ。驚くことに妻の黒い髪にも白髪が混じり始めていた。私はどこを走っているんだ?前方の空気が揺らいで大きな口が現れた。破滅の生き物だ。ブレーキをかけたが、彼の車はどんどん前に移動した。人々も道路を進みながら大きな口に飲みこまれていく。口はよだれを垂らして彼を待ちうける。「なんで逃げるのよ。幸せになれるのよ・・・」妻はうつろな目で笑いかける。「だまれ!おまえはアル中ででヤク中なんだ」彼らは噛み砕かれてドロドロになる。流行の髪型をした彼の娘が微笑む。おまえは死んだはずだ。そして赤ん坊の泣き声が聞こえる。おまえは誰なんだ。おまえは誰なんだ。おまえは・・・・・・。
街灯が青く揺らめいていた。ここはレニンヨークのスラム街。ミロはフラフラと酒場に入っていった。暗い店内に、立体映像がいくつか立ち並んでいた。いつもは裸の女だが、今日は全てミロの顔だった。ミロはカウンターに座るのはやめて、座り心地のよさそうなソファーにどっかりと腰をおろした。彼がここに来て一日が過ぎた。そのまま眠ってしまいたい気分だった。店内はかなり混雑していて、酒以外の悪臭が鼻についた。 ミロがウォッカを飲み干したその時、異様な男が入ってきた。フードつきのダブダブの青い服を着て、体つきはがっしりして、歩き方がぎこちなかった。その男は店内をうろついた後、やがてミロの目の前に座り、フードの陰から異様なほど無表情な顔をこちらへ向けた。 「君がミロか?」 青い服の男は感情のない声で言った。ミロは瞬間的に膝のハンドガンに手を置いた。男はそれは手で制する。 「やめたまえ。私は味方だ。私の名はデカルト。もうすぐここに暗殺者がやって来る。変装をしたって無駄なことだ。さっき入口でチクリとしただろ。顔を変えてもDNAは変わらない・・・」 「なら、なぜここにいるみんなはおれを殺さない」 「店の主人がここを荒らしてほしくないからだ。もう奴は連絡した。君がここを出たとたん、暗殺者は君を消し去るだろう。逃げても無駄なことだ。上空の衛星が君を監視し続けている」 酔っぱらった客同士が店の中で喧嘩をしているなか、2人は黙ってにらみあった。店員達はこちらへ目を向けていた。 「衛星ということは、おれが今まで逃げていた間、いつでもおれは・・・」 「ちがう。衛星が君を発見したのは、この店の主人が連絡してからだ」 「どこに連絡を・・・」 デカルトが身をのりだした。 「それを私も知りたいのだ」 「それよりもまず、ここを逃げたい」 ミロはソファーにもたれかかった。 「まかせろ。ついてこい。いい逃げ場所を知っている」 2人は立ち上がった。店の主人らしい、小太りの禿げた男が端末機にむかって何か話していた。ミロが金を投げてよこすと、男はニタッと笑った。 「いくぞ」 外は霧が出て肌寒かった。店のすぐ前に、サイドカー付きの灰色の新型ホバーバイクが停めてあった。ミロがデカルトに付いていくべきか迷っていると、道のむこうの暗がりから数人の人影が現れた。すぐにミロたちの周りでいくつもの銃の火花が飛び散り、ボロボロのスラムが照らしだされた。ものすごい量のホコリがまきちらされた。 「気をつけろミロ。あれに当たったら後には何も残らない!」 ミロは膝からハンドガンを抜き出し応戦した。にぶい銃声が鳴り響くなか、2人を乗せたホバーバイクが発進した。大型のノズルが火を噴いてバイクが浮き上がり、振り落とされそうな勢いで加速。銃を連射していた人影は遠ざかっていく。 「振り切ったか」 「いや。まだだ」 後ろの狭い路地の暗闇から無数のライトが見える。音からしてホバーバイクだ。そこからパッと光があって、すぐにこちらの通路の壁が爆音と共にふっ飛んで、破片がミロの顔にバシバシ当たった。デカルトはスピードを上げた。危険なほどの速さで、狭い通りにモウモウとチリやゴミが吹きあがった。冷風が体をつき抜ける。 「振り落とされるな。速度を上げた。奴らに発信機をつけられるとまずい」 しかしむこうのバイクの性能もよく、編隊を組んでみるみるうちに接近してくる。ミロは銃を撃ったが相手の装甲は厚く、弾は光を散らせてわきへそれていく。相手の銃が地面に命中して、爆風が地面すれすれで飛んでいたバイクを揺らし、危うく振り落とされそうになる。不安定な状態でミロは撃ち続けたが、街の生ゴミやガラクタをふっ飛ばしただけだった。敵はミロ達を取り囲んで一斉射撃を行った。無数の光や炎や火花やレーザーがあたりに飛び交う。暗殺者達の不気味な顔や、彼らの頭に埋め込まれた機械が見えるくらいに近づいた。デカルトは横から声をはりあげた。 「どうして命中しない!」 「あいつらの頭を見ろ!中枢部のMCと接続して弾道予測をしているんだ!」 デカルトは体をずらした。 「運転しろ。私がやる」 「よせ!接続してないかぎり、奴らに当てるのは不可能だ」 デカルトは後ろを振り向いた。風でフードが頭から外れた。ミロは「あっ」と声をあげた。デカルトの頭は、部分的ではなく全てが機械でできていた。デカルトは大型の銃を運転席から取り出し狙いをつけた。上空から急降下した1台のバイクに向かって連射。運転手は跡形もなくふっ飛んで、バイクは一直線に壁に当たって爆発した。デカルトは追いすがる敵を打ち落としつづけ、火炎と共に爆音があがった。死体を除去するために、上空から葬送ロボット達が舞い降りてきた。何ブロックか飛び続けた後、追う者は誰もいなくなった。 「私も接続できるようだな」 「アンドロイドか・・・」 灰色のホバーバイクは一直線に走り続けた。 小説「タイタンの存在者」 |
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