小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ

ナイス・ドリーム

第1章
「イリミジュ」

いつの間にか夜になっていた。いつものように賢者の森で狩りをしていたら、ウェアウルフたちに囲まれた。血に飢えた灰色の狼人間だ。
キラーウルフ:おまえが裏切り者のワタシか。
1体のウェアウルフが言った。ウェアウルフといっても、ただのモンスターではなく、プレイヤーが変身した姿だ。プレイヤーが変身したウェアウルフは、鋭い牙と爪を持ち、強力な攻撃力を持つ。強力な呪文を唱えないかぎり、ウェアウルフにはなれないはずだ。それなのに6体もいる。まちがいなく彼らはウルフパックスだ。
ゴーストウルフ:魔王もお怒りだ。エドゥーン城の城主やブルーシャドー城の城主は泣いておるぞ。
ワタシ:やるか?
ワタシは剣の柄に手をやり、慎重に身構えた。剣の柄が震える。向こうもワタシの緊張に気づいたようだ。狼のあざけるような遠吠えが、森の一面に響きわたる。
シルバーウルフ:今夜のおれたちに勝てるわけないだろ?
狼人間たちの体から、しびれるくらいに魔力があふれている。この世界にも月齢が存在していた。今夜はちょうど満月だった。ウェアウルフの攻撃力が通常の2倍になる夜だ。
ウルフジャック:どうした。ワタシ。おまえに懸賞金がかかっているのを知っているか?
ワタシ:おまえらこそ、6人もそろっていつまで魔王の手下を続けている気だ?こちらには強力な味方がいるぞ。
シドウルフ:なんだよ。
数の上では優勢なはずのウルフパックスも攻撃を躊躇している。ワタシは強力な戦士だ。戦えば彼らの何体かはあの世行きだ。それに彼らも情報をほしがっている。
ゴーストウルフ:反乱軍か。
彼らも魔王によって力で押さえつけられているだけだ。もしも魔王よりも強力な軍団が現われれば、すぐにでも裏切りたいはずだ。真紅のマントをつけたウェアウルフが1歩踏み出した。リーダーのウルフパックだ。
ウルフパック:なんで裏切った?言えば助けてやろう。
ワタシは答えなかった。ウルフパックスはワタシにどんどん近づいてくる。
ウルフパック:反乱軍には何があるのだ?
ワタシ:我々には柴虎という強力な王がいる。でも戦闘には弱い。たぶん魔王には歯が立たない。
ウルフパック:そいつのどこが強力なのだ。
ワタシ:柴虎は見たこともないアイテムを限りなく持っている。それらのアイテムを今度の戦争で全て使う。
どちらも動かないまま、何分か時間が過ぎた。おそらく彼らだけでチャットをして話しあっているのだろう。
ウルフパック:ドラゴンスレイヤーもあるのか?
ワタシ:ドラゴンスレイヤーか。ドラゴンスレイヤーは、知らん。
また時間がすぎていく。不気味な静寂・・・。
ウルフパック:まさか。今、おまえが持っているのか?だから裏切ったのか?
ワタシ:知らん。
今度はさらに時間がかかった。おそらく、本当にワタシがドラゴンスレイヤーを持っているのか、そして、持っていたとしたらワタシを殺せばドラゴンスレイヤーを手に入れることができるのではないか、しかし、ワタシの持つドラゴンスレイヤーに彼らで立ち向かえるのか議論しているのだろう。
ウルフパック:まあいい。今日のところは見逃してやる。
魔法の効いている時間がすぎたので、ウェアウルフたちは元の姿に戻った。変身が解けた後の彼らは非力な魔術師で、弱々しい老人の姿をしていた。
ウルフパック:今度出会った時こそ、おまえの最後だ。
6つの魔法陣がきらめき、彼らが消えていった。ワタシは一人、暗闇にとり残された。静まりかえる。近くで蛙がゲコゲコと鳴いていた。あぶなかった。ポーションもスクロールもほとんど持っていなかったので、もしもウルフパックスと戦っていたら3秒くらいで死ぬところだった。情報を教えて奴らの魔法が切れるのを待つ作戦が成功したようだ。緊張のせいでマウスが汗でびしょぬれだった。ようやく自分の意識が、パソコンのディスプレイから離れていく。ドラゴンスレイヤーか。香りの強いコーヒーを飲みながら私は考えた。ドラゴンスレイヤーは、幻の武器だ。一説によると、製品版ではなくてベータ版に1つだけ存在していたという。うわさでは最高の攻撃力を持つといわれている。究極のレアアイテム。誰もが一度は憧れ、その獲得を夢見る幻の剣だ。ワタシは持っていなかった。見たことすらなかった。

コーヒーを飲みながら静寂を味わった後、すぐにワタシはケルン城に向かう。テレポートスクロールを使えば一瞬で戻れるが、1ヶ月前に使い果たしていた。それにしても、モンスターを狩ることで少しでもレベルアップをしておこうと思っていただけなのに、とんでもない相手に遭遇してしまった。この世界は、一人の強大な王によって支配されている。その強大な王は通称、魔王と呼ばれている。我が軍が魔王に対して反乱をしかけたのが3ヶ月ほど前のことだ。今では反乱軍はかなりの数にふくれあがっていた。森を抜けて、砂漠を抜けて、ようやくケルン城の門が見えた。ケルン城の門ではバルキリーがワタシを待ち構えていた。
バルキリー:久しぶりじゃな!ヒッキー!
ワタシ:ようヒッキー!乙!
乙とは「お疲れさま」の略だ。ヒッキーとは「引きこもり」の略だ。引きこもりとは、家に閉じこもっている状態が長い人間のことを指す。バルキリーとワタシはこの世界でいつも出会うので、お互い愛称として呼びあっていた。ちなみにモニターの外の現実世界のことをワタシたちは「リアル」と呼んでいた。
バルキリー:どうじゃった?
バルキリーは、いつも老人口調だ。種族はエルフ。耳が長くてラフな格好だ。常に弓を持っている。
ワタシ:どうだったって?リアルで?ここで?
バルキリー:ここでじゃ。
ワタシ:ウルフパックスに会った。
バルキリー:ほう?懐かしい名前じゃが、今は敵じゃ。それで、どうだったんじゃ?
ワタシ:戦わなかった。向こうがどこかへ消えた。
バルキリー:ほほぅ。今日は遠出をしないほうがいいみたいじゃな。みんなに伝えておくぞい。
ケルン城は、魔王の城から1番離れた小さな城だ。ここを陥落させてから1ヶ月が過ぎた。そろそろなにか動きがあってもいいはずだ。
バルキリー:柴虎王が探してたぞい。行って来い。
ワタシ:分かった。
城内に入ると、100人以上の戦士、魔術師、エルフ、ドワーフたちがたむろっていた。画面に見えるキャラクターのそれぞれがプレイヤーだ。それぞれのプレイヤーたちは、パソコンを前にして、マウスで自由に動き回り、思い思いの言葉をキーボードで打ちこんでいる。
柴虎王は玉座の間にいた。窓から外を見下ろしているように見える。古代のルーン文字がちりばめられた豪華絢爛な鎧をつけている。威風堂々たる貫禄ある外見だ。ケルン城を手に入れた今、君主の象徴である真っ赤なマントを身にまとっている。柴虎王はこちらに振りむいた。
柴虎:おう!どうよ。
ワタシ:賢者の森でウルフパックに会った。
柴虎:そうか。魔王の親衛部隊だっけ?どうだった?
ワタシ:とりあえず挨拶だけ。今度会ったら斬りあいになりそうだ。
柴虎:偵察にきたのかな?
ワタシ:たぶんな。
柴虎:奴らはおれたちと互角だ。それにチームワークも最高だぜ。全員でネット喫茶に集まって、一列に並んでプレイしているらしい。気をつけてくれよ。
ワタシ:私を呼んでいたそうだが?
柴虎:ああ、そろそろおまえの正体について教えてくれよ。おまえ、大学生か?
ワタシ:その話はすんだだろ?
柴虎:おまえが30過ぎの無職だって、信じられないよ。
ワタシ:精神年齢が低いだけだよ。つまりは幼稚だってことだ。
柴虎:自分で言うなよ。スゲー性格ひねくれてるよな。
ワタシ:人のこと言えるのか?それよりも君の正体の方が気になるが。
柴虎:おれ?ははははははははは!
ワタシ:笑ってないで。
柴虎:まあまあ。そのうち話すよ。なぜかおまえとは話が合うんだよな。同い年ぐらいかと思ったんだけど。そうか。
叫び声が聞こえた。
バルキリー:敵襲じゃ〜!敵襲じゃ〜!
城にモンスターがやってきたのだろうか。
柴虎:どうしたんだ?
バルキリー:集合じゃ〜!サイクロプスが攻めてきた!
ワタシ:行ってくる。
建物から出ると、大混乱になっていた。門の外では一つ目の大巨人、通称サイクロプスが50体ほど荒れ狂っている。大地を揺るがす猛攻撃だ。魔術師がこちらに走ってきた。
メグちゃんSOS:キターッ!早く入口に!サポートすっから。
ワタシ:OK。
門の前では、バルキリーが自慢の弓で敵を撃退していた。勇猛果敢なバルキリーは、大軍が迫ってきても引き下がろうとはしない。しかし多勢に無勢。地の底から吹き出るようなうなり声を上げて、サイクロプスが突進してくる。ワタシは最前線に立ち、バルキリーを援護する。戦士の数が足りないので、抑えきることができない。このままでは全滅してしまう。
ワタシ:戦争はまだ先のはずだろ?
バルキリー:これは戦争じゃないぞ!我々の兵力を少しでも減らすための襲撃じゃ!
ワタシは今、体力回復のアイテムがないので本気で攻撃ができない。防戦一方だ。
みなよ200:HLP!
(・∀・):アギャ━━━━━ヽ(´Д`;)ノ━━━━━!!!
魔術師のみなよ200と(・∀・)が巨人に囲まれて攻撃を受けつづけている。彼女たちの命は風前の灯だ。ワタシはすぐにそちらに向かい、剣を振りまわして迎撃にあたる。魔術師たちも体勢が整ったのか、攻撃魔法の「雷撃の嵐」を巨人にあびせて効果的にとどめを刺していく。強烈な光が画面に飛び散っていく。雷の放射を受けて、何体ものサイクロプスが地響きを立てて崩れ落ちていく。逃げるサイクロプスもいたが、深追いしない。城の防御が先決だ。ワタシは敵の大軍に向かって駆けだした。
みなよ200:ワタシしゃんありがとネ〜!
(・∀・):∩(´∀`)∩ワーイ
このサイクロプスは、攻撃力がいつもより強い。攻撃力アップの魔法をかけているようだ。だから、どこかに敵の魔術師がいるはすだ。でも姿が見えない。サイクロプスの1体が門を破って広場に入ってきた。荒れ狂う猛攻に太刀打ちできない。広場で遠距離攻撃していた体力のない魔術師たちが次々に倒れていく。その時、ホワイトエルフのイリミジュが建物から出てきた。イリミジュはすぐに広場のサイクロプスめがけて魔法を放った。「封魔月砲」の呪文だ。空中に巨大なブラックホールが現われてサイクロプスが暗黒空間に吸いこまれていく。
イリミジュ:ログインしたばっかでわけがわからないの!敵襲?どうしたらいいの?
ワタシ:あのサイクロプスは魔術師が動かしている!後ろに隠れている魔術師を倒せばかなりの数が消えるはずだ!
イリミジュ:魔術師が操ってるの?
城門を軽やかにすり抜けて、イリミジュが敵陣の中に突入した。風のように駆け抜けていく。驚くべき速さだ。おそらく「疾風」の呪文を唱えたのだろう。動きの遅いサイクロプスたちは、彼女に攻撃することができない。しばらくワタシはイリミジュの戦う姿に見とれていたが、ふと気づくと、目の前に体力回復のポーションが20個も置いてあるのに気づいた。イリミジュが置いてくれたのだろう。ワタシはそれを拾って、敵陣の中に突っこんだ。
イリミジュ:魔術師がどこにも見えないわよ!
きっと魔術師はサイクロプスに変身しているのだ。本物のサイクロプスの中に紛れこんでいるにちがいない。時間との勝負だ。早く敵の魔術師を見つけないと全滅してしまう。ふと、回復魔法を使っているサイクロプスがいるのに気づいた。小さな一瞬の赤い光だったが、ワタシは見逃さなかった。
ワタシ:あそこだ!1番北にいる!枯れ木のそばに立っている!
イリミジュの魔法「超新星の槍」が火を噴いた。魔力をこめた巨大な光の弾が、ゆらめく炎とともに一直線に駆け抜ける。強烈な爆発。命中!イリミジュが次々に流星を投げつけていく。バタバタとサイクロプスが何体も倒れていく。そのうちの1体が奇妙な叫び声をあげて倒れた。巨人変身の呪文が解けて、か弱い老人の姿に変わっていく。こいつがサイクロプスを操っていた魔術師に違いない。魔術師が倒れたとたんにサイクロプスを操っていた呪文が解けた。大部分のサイクロプスたちが攻撃を止めて自分の生息地に戻りはじめていく。まだ立ち去らずに荒れ狂い続けているサイクロプスも何体かいた。みんなでとりかこんで興奮状態の敵を撃退する。巨人の死体の山が築かれていく。しばらくして、咆哮であふれていた戦場が静かになった。襲撃が終わったのだ。生き残った仲間たちは放心状態で立ちつくしたままだ。エルフが話しかけてきた。
マキマティコ:死ぬかとオモタヨ。
ワタシ:何人やられた?
マキマティコ:ドーリアンが殺られた。
ワタシ:バルキリーは?
マキマティコ:ああ、見張りの老人?あいつ真っ先に殺られた。
バルキリーの死にワタシは愕然とした。あれほどの弓矢の使い手はこの軍に存在しなかったのだ。バルキリーのレベルに達するには2年間ものプレイ時間が必要である。あまりにも痛すぎる被害だ。しばらく周りの様子を見回っていると、イリミジュが帰ってきた。彼女を囲うようにしてみんなが集まってくる。大歓声だ。騒ぎが収まってからイリミジュがこちらにやってきた。
イリミジュ:被害は?
パンチョ・ビラ:マスタークラスのキャラが3人死んだ。
イリミジュ:だれ?
マキマティコ:ドーリアンと野菜伯爵とバルキリー。
イリミジュ:バルキリーが!
ワタシ:後はほとんど被害がない。みんな戦争に備えて本キャラを温存していた。
イリミジュ:ああ!マスタークラスが3人も?痛いわね。
夜になっていた。我が軍は、城の広場に設置された焚き火の周りに集まった。たくさんの人で、どれがワタシなのか自分でも分からない。ワタシの外見は普通の戦士だった。戦士は、この世界でどこにでも見かける特徴のないキャラクターだ。今日からプレイしはじめたプレイヤーとワタシとを比べても、外見上はなにも変わらない。よく見ると、焚き火にあたっている群集の外れのほうにワタシは座っていた。
イリミジュ:ありがとう。さすがは歴戦の勇者ね。
となりに座っているイリミジュが言った。
ワタシ:魔術師も落ち着いていれば魔法なんか出さないんだ。でも、あんなにゴチャゴチャした乱戦になると、ついついあせって魔法を使ってしまって正体がばれる。
イリミジュ:あんなに一瞬の光によく気づいたわね。ふつうじゃ見逃すはずよ。すばらしい!
ワタシ:私はどこの世界にも属せない人間だよ。この閉じた世界でいばっているだけだ。
イリミジュ:ここも一つの世界よ。1万人以上の人が同じサーバーの中でプレイしているのよ。
サーバーとは、このゲーム世界を動かしているコンピューターのことだ。柴虎王が立ち上がった。
柴虎:今日もケルン城を守ることができた!ご苦労だったぞ!みんなのおかげだ!
みなよ200:とんでも7分、歩いて5分でしゅよ〜!
パンチョ・ビラ:でも今日はあぶなかったよな〜!
柴虎:本日の勝利に乾杯!
ワタシ:かんぱ〜い!
イリミジュ:カンパーイ!
(・∀・):( ´Д`)ノ□
ドロンジョ:乙!
マキマティコ:オツ!
一斉に群集が叫んだ。花火が打ち上げられた。誰かがアイテムを使ったのだ。仲間同士で斬りあっている奴らもいる。騒ぎがどんどん大きくなっていく。柴虎王が声をはりあげた。
柴虎:待て!落ちつけ!モチツケ!今日は本物の戦争じゃない。この城の攻防戦を3週間後に控えている。今度の戦争に負ければ城がとられるんだぞ!勝負はこれからだ!
ワタシはイリミジュの姿を探した。イリミジュの姿は群集の中でも浮き上がって見える。イリミジュがたくさんの人と話すために活発に歩き回っている。その姿は涼しい風が自在に吹き通うようだ。ワタシは思わず見とれてしまう。イリミジュはホワイトエルフだ。ホワイトエルフという種族は、彼女以外に見たことがない。謎の種族だった。ゆったりとした半透明のローブに身を包み、歩くと風になびく半透明のスカーフを首に巻いている。ローブの奥で体のラインがおぼろげに見え隠れしていた。歩く姿がなめらかで、本物の人間を見ているかのようだ。アニメーションパターンが普通の種族よりも2倍くらいあるように見えた。イリミジュの謎めいた存在が神秘的な魅力を放って、我が軍の士気を上げているのだ。
柴虎:次もがんばるぞ〜!ダァァァァァァァァ!
柴虎王の勝ちどきが終わったので、軍団のメンバーが思い思いのプレイに戻っていく。ある者は狩りに行き、ある者は城に残って仲間たちとたわむれ、またある者はゲームの接続を切って世界から消えていく。
柴虎王は魔法陣の輝きと共にどこかへ消えた。ワタシもしばらくしてテレポートスクロールを使って、あらかじめ決めてあった目的地に飛んだ。城内の景色が一瞬にしてガダファイル山の頂上の雄大な景色に変わる。どこまでも広がる雲海に山頂が浮かんでいた。雲海に柴虎王の周りには、すでに全ての側近たちが集まっていた。誰も口を開かない。柴虎王の言葉を、息を飲んで待っている。
柴虎:いいか。さっきのは嘘だ。1週間後に戦争だ。すでに戦争の設定は済ませている。どこにスパイが潜んでいるかもしれないからな。3週間も待ってられるか!ブルーシャドー城に攻めこむぞ!奇襲だ!
魔術師のドロンジョがすぐに声をかける。
ドロンジョ:でも3週間後には攻城戦がありますよ。
まさらっき:そうだ!兵力が持たない!タダでさえ今日の戦闘で消耗してるのに!
柴虎:おう!だから1週間後にブルーシャドー城に攻めこむ軍団は少数精鋭にしておく。今日の相手みたいに突然襲いかかればいけるはずだ。ドロンジョもブルーシャドーに攻めこめ!
ドロンジョ:げげげ!
みなよ200:あははははは。
柴虎:そこで笑ってるみなよ200も行け!
みなよ200:げろんぱ。
(・∀・):(*^.^*)
柴虎:そろそろ朝だ。解散しよう。
柴虎王が消えた。おそらくケルン城に戻ったのだろう。まだ仲間たちは帰らずに山頂に残っている。
みなよ200:大変なことになったワン。
ドロンジョ:まったく、奇襲なんてね〜。
まさらっき:本気で戦う気か?ケルン城を取ったんだから、もういいじゃん。
メグちゃんSOS:やる気よ、あの子。
ワタシ:あの子?柴虎王って、リアルでは子供なの?
メグちゃんSOS:わかんない。でも、なんとなくかわいいじゃん?
マキマティコ:柴虎さんってなにもんなの?
パンチョ・ビラ:そうだ、あいつなんなんだよ。
みなよ200:入院患者って聞いたよ。重い病気で何年もベッドの上でプレイしてるんだって。
パンチョ・ビラ:マジ?
(・∀・):(;-@Д@)
まさらっき:ソースは?
みなよ200:ネットの掲示板。
メグちゃんSOS:おいおいw
まさらっき:おれは、20年前からのパソコン通信の頃からのネット中毒だってどこかで聞いたことある。
パンチョ・ビラ:ああ、そうかもな。なんか話しぶりもおっさんくさいよな。
ドロンジョ:プレイ時間が尋常じゃないわよね。
パンチョ・ビラ:リアルよりも過ごしている時間長いよねw
まさらっき:おれもリアルよりこっちで過ごす時間の方が長いぜ。こっちの方がリアルより達成感あるし、着実に成長してる気がするし、いい奴も多いぜ。
みなよ200:廃人w
うわさ話がはずんで止まらなくなっていく。でも誰も柴虎王の正体は知らないようだ。ワタシはテレポートしてケルン城に飛んだ。誰もいなかった。リアルではもう4時なのだ。城門の前で、柴虎王に似たキャラクターを見つけた。真紅のマントをつけていないが、本人だろうか。同じ外見をしているプレイヤーはこの世界に何百人もいる。キャラクターにマウスカーソルを合わせると「柴虎」という名前が現われた。まちがいなく本人だ。なにを考えているのだろうか。ゲーム内のキャラクターだけ見ても本人の気持ちは分からない。それは現実の人間を前にしても同じことだ。
ワタシ:落ちてる?
柴虎:ああ、つないでる。そろそろ落ちる。明日のリアルでは予定はないのか?
ワタシ:このところずっとリアルでは予定ないよ。
柴虎:そうか。無職だもんな^^
ワタシ:ドラゴンスレイヤーをくれないか。
柴虎:は??ドラゴンスレイヤー?
ワタシ:ああ、手持ちの武器じゃ頼りない。
柴虎:あれは伝説の武器だ。だれも見たことがない。ゲームの制作会社の設定資料にしか存在していない。
ワタシ:君なら持っているんじゃないか?
柴虎:さあ、どうだかな。持っていたとしても。
ワタシ:私には渡さないのか。
柴虎:まあ、そういうこと。いつ裏切られるか分かったもんじゃねえからな。
ワタシ:そこまで言うか?信用できるまで様子を見るんだな?
柴虎:そういうこと。
柴虎王は、しばらくして付け加えた。
柴虎:ごめんよ。
ワタシ:おまえこそ何者なんだよ?
柴虎:ははははははあははははははあは!
一瞬、魔法の光彩がきらめいた。大笑いしながら柴虎王は、魔法を使ってどこかへ消えた。

小説「ナイス・ドリーム」