ダークロHP
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21世紀のマルキスト

西武新宿駅の電車の中で、うとうとしていたら、赤い顔した酔っぱらいの中年の2人組が入ってきた。浮浪者のような外見で、信じられないくらいに強烈に匂った。どこかに行く途中なのだろう。ビニール袋を何個か握り締めていた。1人はフラフラして、もう1人は酔いつぶれて座ったとたんに眠りこんでいる。まだ平日の真っ昼間なのに。
「いいか、これからだよ!岡ちゃん!これからだからね!マルクスは!唯物論的・・・・・唯物論的、弁証法はこれからだから」
フラフラしたのが立ち上がって叫んだ。どうやらヨーロッパだけでなく、西武新宿線にも幽霊が出たようだ。浮浪者の団体を援助する組織は何個かあって、中には政治系の団体もある。私の友人のおじいちゃんがそうだったように、ヤクザがタコ部屋に突っこんで肉体労働をさせて、カレーライスだけ食わせて援助資金を3万円残してピンはねすることもあるけど。フラフラはマルクス系の団体に世話になってるのだろう。
電車が発車した。気がつくと、この車両には私たちしかいなくなっていた。
「さあ、岡ちゃん!出発したよ!この電車はモスクワまで続いてるから、中国にも行くよ。北朝鮮には行かない」
フラフラは断言した。なかなかのファンタジーだ。銀河鉄道の夜みたい。次の駅でマルクスとレーニンが乗ってきそうだ。私は思わず外の景色を見た。このまま私を含めてアウシュビッツに連れて行かれそうな気がしたけど。
「岡ちゃん!ノンポリの島田氏はどうしてる?」
「・・・」
「なに?死んだ!あれかぁ、内ゲバかぁ!」
最近はノンポリも内ゲバされるのだろう。遠くなったり近くなったりして、フラフラは現実と接しているのだろう。
「みんな死んじゃうんだね。オレの友達も20人ぐらい死んだよ。みんな内ゲバで殺されちゃった。ニュースにも全然出てこねえんだよ。おれもさあ、巣鴨まで連れて行かれて、ここが巣鴨プリズンだと言われて殺されそうになったけど、岡ちゃんの名前を出したら助かったよ。岡ちゃん、ありがとう!」
フラフラが岡ちゃんに抱きついた。巣鴨プリズンとは、ヤクザのタコ部屋のことだろうか。今までの生活に対し、独特の唯物論的弁証法を使って、フラフラは物語を作り出したのだ。全ての浮浪者が内ゲバによって殺される物語だ。
「岡ちゃん!おれもねえ、アラブとかイラク戦争とか反対したいんだけど、おまえは反対するなって言われて反対できないんだよ・・・」
「飲めよ・・・飲みなったら飲めよ、飲みなったら飲めよ、飲みなったら、飲めよ」
岡ちゃんは繰り返し繰り返し同じフレーズで歌いはじめた。フラフラも疲れたのか、涙を流しながら岡ちゃんにもたれかかって眠りこんだ。駅についた。私は立ち上がった。岡ちゃんとその友人は、獲得した世界の中でうなだれていた。なんとなくかわいそうな気がした。獲得した世界。それはどこにあるのだろう。岡ちゃんたちと一緒に夢の中に行ってしまったような気がした。ここにはない世界。岡ちゃんたちは今、そこにいる。彼らの真っ赤な夢の中で、みんなが笑っている。私は世界の外に取り残された。かけるべき言葉を探したが、何もなかった。
「万国のプロレタリアートよ、団結せよ」
電車を降りる直前に、彼らに声をかけた。反応がなかった。鳥肌が立つほど軽々しい響きだった。


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