小市民ダークロのありがちで気の抜けた感じのやつ

フレンド


うまかったな。え?なんだおまえ。まだ食ってないの?まあいいや。ゆっくり食えよ。タバコ吸っていい?おう。ん?え?ライター。ああ。これ?高くねえよ。まあ、ある意味高いけど。これ、金のフレンド。え?だから、金のフレンド。銀のフレンドを3枚集めると、金のフレンドがもらえる。え?だから、銀のフレンドを3枚集めると、金のフレンドがもらえる。ほら。新宿にフレンドっていうローンがあるでしょ?え?しらない?学生時代、そこで借りてたの。もう、かれこれ10年も前の話だな。最初にお金を借りると、まずはプラスチックフレンドがもらえるの。でね、なんでフレンドっていうかっていうと。友達を店に紹介すると、利子が0.5%へるんだよ。友達を紹介すれば紹介するほど利子が安くなる。そうそう逆ネズミ講。で、友達を紹介すれば鉄のフレンドがもらえる。次は青銅のフレンド。で、銀のフレンド。で、3枚集めると、おれの持ってる金のフレンド。プラチナフレンドもあるらしいけど、誰も見たことがない。で、おれは喜んで友達を紹介していった。で、だんだんおれの周りのみんながフレンドで借りるようになって、みんながフレンドのライター持ってた。みんなフレンド。みんながフレンド。だんだん返せなくなった学生達が増えてきて、親とかが払うはめになったりして、社会問題になってきて、「フレンド被害者の会」っていうのができた。それでも、どんどんフレンドやってるやつらが増えてきて、「フレンド被害者の会」の会員もどんどん増えていって、だんだん学生の大部分が「フレンド被害者の会」に入ることになって、一大勢力になってきて、だんだんメジャーになるにつれて「フレンド被害者の会」っていう名前が「フレンド会」って短縮形になった。で、なんかサークルみたいになってきちゃって、フレンド会に入ることが一種のステータスみたいなことになってきた。で、新入生とかみんな喜んでフレンドで金を借りて仲間になった。で、おれは何年もそのまま借り続けてて、だんだんいくら借りているんだかわからなくなってきて、そのうちさらに、ひょっとしておれの方が借りているんじゃなくて、貸しているんじゃないかなあって思いこんできて、ある朝、フレンドに電話した。「おれって、いくら借りてるんですか?千人くらい紹介しているんだから、プラスに転じてるんじゃないかな?ふつう、おれの立場なら、もうかっていいはずでしょ?」「お客様のおっしゃることは、たぶんネズミ講とかマルチとかいうもので、弊社とは別の業種ですね」「ええー。失敗!でも際限なく、どんどん0.5%ずつ利子がへるなら、今は0に近いんじゃないの?」「いえ。月に1万円は、最低金額になるんです」「で、実際、おれはいくら借りてるの?」「40万です」「で、いつまでに返せばいいのかな?」店の女が明るく笑った。「もう月々の利子さえ払っていただければ、いつまでも、永遠にそのまま借りたままでかまいませんから!」で、アッハッハ!って笑ってたね。まあ、あの頃は、おれも若かったし。しかも、学生で、会社で働いてねえし、遊んでばっかだったからな。うん。さて、今月分も1万、早く払わねえとな。え?なんだおまえ。まだ食ってないの?