映画評 |
1979年/ドイツ/120分 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 撮影:ミヒャエル・バルハウス 出演:ハンナ・シグラ/クラウス・レーヴィッチェ/イヴァン・デニ/エリザベト・トリッセナー | |
ヘルマン・ブラウン。彼女を妻としますか?ドゴーン!ヒトラーの肖像画が爆風で吹っ飛ぶシーンから映画が始まる。戦場での結婚式。逃げる神父。まき散る書類。非常に激しく、笑えるシーンだ。この発想はすばらしい。映画として生命力にあふれ、登場人物にたくましさも感じるし、歴史的な問いかけをしているシーンだ。「なんで第2次世界大戦のドイツはこんなになったのか」という親の世代に対しての疑問を投げかけている。「彼らは死に、ドイツは生きる」映画全体がドイツのたくましい生命力を謳いあげた賛歌になっている。行け行け!マリア・ブラウン!タバコを吸うシーンが印象的だ。タバコへの渇望。自由がそもそもタバコを吸うことにあるかのように。平和こそ喫煙であるかのように。背景の音も面白い。ラジオ、口笛、列車の音、駅のアナウンス、ピアノの音、水の流れ落ちる音。ざわめくような活気。さまざまな背景音が映画のシーンを彩っている。時代の雰囲気が浮かび上がってくるかのようだ。撮影はバルハウス。いい構図も多い。冒頭のヒトラーが吹っ飛んで壁の向こうから新郎新婦が並んで見えるシーンは、強烈な印象を残す。手前に物を置いて広がりを持たせるような構図も多い。牢屋を手前にして2人で語らうシーンは鉄格子の影がきれいだ。商談が終わって3人で食卓にいる時の彼女の頭の上に電気の傘があるシーンも風変わりで面白い。家族でダンスしているシーンは流れるような動きで美しい。レストランでの優雅なカメラの動き。特に、ハンナ・シグラを美しく撮れている。バーの面接のシーン、電車のトイレから出てきたシーン。周囲の風景から浮き上がって見える。秘書になってからは服装も豪華になっていく。物語よりも、マリア・ブラウンの美しさに本質があるような気がする。たくましいだけではなく、美しい女性だ。「奇跡を自分で起こすのよ」と彼女に言われたら、その通りのような気がしてくる。ドイツとマリアの運命の翻弄が描かれる。ドイツという国自体も、当時は巨大なアメリカとのパワーゲームに負け、従属される側にいる。アメリカの軍人。フランスの実業家。マリア自身も、他人の影響範囲に強引に押しこまれるようなパワーゲームに翻弄される。その二重構造のバランスの面白さがこの映画の魅力だ。支配する側、される側の描き方が巧みだ。愛人関係でも主導権争いが描かれる。そのパワーゲームにこそファスビンダーの個性がある。ついに手に入れた場所は一瞬にして消え去るような虚無。この結末に主人公を押しこむ監督。全てを自分自身の影響範囲に置きたがるような、この監督の閉鎖的な気味の悪さを感じる。激しさや鋭さはあるが、温かみを描けない。そのため、映画のほとんどを出兵し、投獄され、姿をくらまし、夫は留守にしている。円満な家庭生活を描けないため、たとえ幸福の瞬間が訪れても、そこまでだ。そこまでだ。それ以上は描くことができない。冒頭と同じく、爆発で終わる。爆弾のような破壊力と衝撃を持った人生だったのかもしれない。映画の最後、あまりの衝撃のせいで、脱力感や虚脱感が爆風と共に降りかかり、私の周りが真っ暗になって時間が止まった。どうだろう。どうだろう。表現者としてどうなのだろうか。滑稽に思えるほどの、かなりの悲劇だ。心温まる愛情や幸せを描けないという致命的な弱点は、この映画の場合は奇跡的なまでに時代と寄り添うことで解消される。「離れ離れ」という状況は東西ドイツの象徴にもなっているだろうし、戦争によって永遠に離れ離れになってしまった人も多い。女一人で生き抜いた人も多かっただろう。海外の兵隊や国外の実業家たちへの距離感も、多くの共感があったに違いない。時代背景を取りこむことで、監督の弱点が逆に長所となって観客の支持を得られたのではなかろうか。心の琴線に触れるような鋭い批評眼だ。同時に、役者やカメラが優しい。映画というものは集団製作だ。個性のぶつかり合いがなにかに昇華した瞬間がある。「見応え」というのは、このような映画から味わうものなのかもしれない。映画の中に、なにかがつまっている。戦後の時代と一体化している。戦後と結婚しているかのようだ。戦後は彼女とともによりそっている。信頼関係もあるし愛情もある。弱くて不完全だった時代だ。サッカーが弱く、再軍備されない時代だ。時代そのものが、人間と同じようによく描けている。戦後にとって彼女との結婚生活は幸せだったのだろうか。全ての結婚生活がそうであるように、複雑な味わいがあって一言では言い表せないものであるかのようだ。映画としての魅力がここにある。観客の誰もがそれぞれの意見を持てるような開放感がある。観客のそれぞれが、時代と対話できるような、心地よい空間がある。 | |
2001年/アメリカ・フランス/146分 監督:デヴィッド・リンチ 出演:ナオミ・ワッツ/ローラ・エレナ・ハリング/ジャスティン・セロウ/アン・ミラー | |
冒頭のダンスシーンで「またかよ」とイヤな顔になったのは私だけだろうか、少し外し方がワンパターンではないか。最初はテレビシリーズの企画だったがNG出されたそうだ。確かにテレビだとつらそうだ。空港でのあまりに紋切り型な老夫婦との別れの会話が、メチャクチャ不自然だなあと思った。だけど今、思い返すと、もうそこから現実に別れを告げさせられていたわけだ。オーディションでの監督のリアルを論じたアドバイスなど、なかなか奥行きを持たせた脚本が良かった。わざと手持ちカメラにして揺らせたりするカメラワークが恐怖感を演出させようとしていたが、ギャグだかパロディだか分からない貧弱さがあった。スクリーンを利用する映画的な構図はあまり見あたらず、ほとんどテレビ的な、役者を中央に置いてアップを多用するものだった。せっかくの空間がもったいない。ストーリーはブルーベルベット、ツインピークスに比べれば、はるかに分かりやすいものだが、アメリカ的な合理主義精神が必要不可欠だ。狙いと外しに理屈がありすぎる。不思議さがない。ガルシアマルケスみたいにマジカルリアリズムが根を張る南米あたりの世界がこの話を映画化したらもっと面白くなるかもしれない。最初の空港で「あいきゃんとびりーぶいっと」と映画の性格を意味付けるセリフを「とうとう来たわ」と訳す訳者に芸がなかった。 | |
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1999年/アメリカ/121分 監督:キンカ・ユーシャー 出演:グレッグ・キニア/クレア・フォーラニ/ジェフリー・ラッシュ/ベン・スティラー | |
ただのB級映画と思ったら画面がきれいで驚いた。映像、照明ともに文句ない。狭くてしょぼい撮影スタジオに広がりを持たせている。撮影はスティーブン・H・ブラム。ミッション:インポッシブル、ローズ家の戦争、アンタッチャブル。最近はジミだけどいい仕事してるな。役者とシナリオと音楽を考えずに見ると、結構楽しめる。時は近未来。スーパーヒーローのキャプテンに憧れるダメヒーロー3人組の活躍を描くSF映画。キャプテンの衣装にスポンサーのロゴマークがある部分がリアルだ。キャプテンの宿敵が死んだり捕まったりして全員いなくなっため、刑務所からわざわざ宿敵を釈放させるところが面白い。おもいっきりビジネスライクなスーパーヒーロー。スポンサーのために活躍する必要があるのだ。ただ、彼の活躍は冒頭で終わる。キャプテンの活躍をもっと見たかったな。ダメヒーロー3人組は、想像以上にダメで、警官にも怖じ気づく。このダメヒーローは、特殊技能があるわけでもない普通のおじさんで、夜になると女房がいるから帰ったりする。「四六時中街をさまよって何になるの?」と女房に説教されたりもする。途中から変な仲間たちが入って、ストーリーの焦点がぼやけてしまったのが惜しい。小道具としては、「プロボーラーだった父の頭蓋骨が入っている透明なボウリングの球」が個性的だった。 | |
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1988年/アメリカ/126分 監督:マーティン・ブレスト 出演:ロバート・デ・ニーロ/チャールズ・グローディン/ヤフェット・コットー/ジョン・アシュトン | |
1988年で一番面白かった映画。とテレビの解説者が言っていた。ロードムービー的なアクション映画なのだが、しっかりと作られている。ライトや映像の質感は80年代アメリカ映画そのものに見えた。カット割がテンポよく物語を流していて、爽快だ。最初の30分の密度が濃い。最初の銃撃戦からひきつけられる。話をまとめ、登場人物をしっかり描いた脚本はすごい。細かい会話もよく練られている。最後まで会計士がどうなるか分からない。主人公が10万ドルを手に入れられるのか分からない。どきどきする。「来世で会おう」というセリフがいい。主人公が会計士を逃がせば10万ドルの賞金が手に入らない。会計士は敵から大金を盗み出している過去を持つ。敵をまんまと欺いた会計士に対する微妙な感情。会計士を敵に引き渡せば100万ドル。敵は会計士に秘密をばらされるのを怖れている。逃がしても捕まえても会計士は殺されるかもしれないので、敵を助けることになる。ライバルの賞金稼ぎも現れてクライアントに対する信頼も薄れてくる。会計士はおっとりとしていて、その実、油断ができない面をもつ。会計士に対する主人公の心の葛藤と登場人物たちのさまざまな思惑を盛りこむことで物語に厚みを出している。全然、無敵には見えず、時にはおどおどし、突如感情をぶちまけるロバートデニーロは、やはり役者だなあ、ただのアクション俳優には到底できない演技だなあと思った。 | |
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2011年/日本/106分 脚本・監督:山内ケンジ 撮影:橋本清明 出演:初音映莉子/石橋けい/古舘寛治/三浦俊輔/山本裕子/永井若葉 | |
昔、2000年に私は勤務時間中に仕事をまったくせずに「φSTORY/ラブストーリー」というゲームをやり続けていたことがあって、そのゲームに出てくる役者に初音映莉子がいた。彼女の演技にくぎ付けになった。1人だけ大人の演技をしていた。きれいな外見とは裏腹に他の役者を手のひらでもてあそぶような老獪さが印象的だった。あれから11年。相変わらず、上手だ。ミツコそのものである。日本映画の中でも突出して上手なのではないか。単に私が好きなだけなのかもしれないが。彼女だけを眺めていたかったのだが、三浦くんがそれを邪魔した。三浦くんがそのまま映画をのっとったかのような怪演。「三浦感覚」という題名でもいいくらいの存在感を放ってしまっている。三浦くんは非常にうざく、早く画面から消えてほしいと何度も何度も願った。登場人物に対し、こんなに嫌な気分になったのは初めてだ。場違いな感じや嫌な雰囲気の演出が抜群。セリフをバンバン重ねていくリズムの良さ、テンポの良さ。さらに、セリフがよく練られていて、すごくリアルに感じる。映画というよりも、出来のいい小劇団を見るかのような感覚。演技も最高に上手い。三浦くん以外は「本当にこんな人いそう」と思えるような芸達者がそろっている。芸達者すぎる。本妻と不倫相手の1対1の対話が、緊張感があってすごくリアルで、強く印象に残った。全てをセリフにせずに、全体の流れを緊張感の中で最後まで途切れることなく描き出した演出に、非常にセンスの良さを感じた。全ての登場人物に、解決すべき問題がある。最後まで解決されたのか否か、成長したのかしなかったのか、よくわからない。そもそも映画の冒頭から結末にかけて、主人公が嘘っぽく成長されてもちょっと困る。こういう登場人物やこういう話の流れのほうが身近に感じて、面白い。クライマックスでの姉妹の目を見張るような緊張感のある口論も素晴らしかった。さらに、そのあとで、玄関のドアを開けた時のシーンに声を上げて笑っている自分がいた。大笑いしているのが自分だけなので、ちょっと恥ずかしかった。パンフレットにすべての脚本が載っていて、後で眺めて楽しめたのでよかった。 | |
1999年/アメリカ/121分 監督:F・ゲイリー・グレイ 出演:マーク・ウォールバーグ/シャーリーズ・セロン/エドワード・ノートン/セス・グリーン | |
ミニは目立って出てこないので、この邦題には無理がある。リメイクだからといって、内容が違うのだから、題名も変えたほうがいい。オリジナルの上映当時はカーチェイスが売りになっていたけど、もはや時代は変わっている。難しい時代に出たリメイク企画だ。無難にこなした監督の力量はすばらしい。ただ、もっと本物のカーチェイス映画を見たかった気もするが。たぶんそうすればもっと客も来ただろう。私が見た時には客が5人しかいなかった。アクション部分よりもきれいな画面の演出が印象に残る。最初のベニスでのシーンが丁寧に撮っていて見ごたえがあった。リズムを強調した音楽が、シーンに調和していてよかった。コンピューターを使う役で出ていたセス・グリーンが好きなので、私はさらに楽しめた。ホテル・ニュー・ハンプシャーの末っ子役やラジオデイズの主演もやってる子役出身だ。ラットレースやオースティン・パワーズ(ドクターイーブルの息子役)にも出ていて、コメディ映画ではすごく印象に残る役者だ。背が低いのでスターになりきれなかったと思うが、実際の所、どうなのだろうか。 | |
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2008年/香港/88分 監督:チャウ・シンチー 出演:チャウ・シンチー / シュー・チャオ/キティ・チャン | |
物語の最初の方で、何気なく座って弁当を食べ始めたところが、すごく高いところだと後から分かるようなカメラワークが印象的。荒野に向かって走るようなヒリヒリとした感覚になって、ワクワクした。全体を通してカメラワークは非常に面白い。チャウシンチーは歴史もの、カンフーもの、スポーツもの、刑事もの、自伝的作風など、さまざまなテーマで映画を作っているが、家族愛がテーマの映画はまだなかったように思う。浦安鉄筋家族やペットントンなど、いろいろな日本でもイメージしやすいガジェットを組み合わせ、さらに貧富の差を物語にからめている。どのような視点から描いているか。親方と言い合いをした時に、一瞬笑うところがあるが、実際にあれだけ追い詰められて感情的になったら、怒鳴るよりも笑いが出るだろうなと思い、引きこまれていった。少林サッカーでも同じような笑いをみたが、これは彼の(香港映画の)引き出しの一つだろう。マンガのような一瞬の刺激を重視する作風なので、CG合成の演技もまったく違和感ない。映画自体はくだらなく、ウンチマシンガンを子役がくらうバカバカしさに満ちている。一瞬、非常に平面的な印象を受けるかもしれない。しかし、彼の映画は、さまざまなテーマ、規模の大小があるが、つきつめると庶民の笑いがあるようだ。 「笑いっていうのはどこかで残酷なものですよ」 渥美さんがそんなことを云ったことがある。二枚目だろうが不細工な男だろうが、インテリだろうが無教養な男だろうが恋の苦しみに変りはあるはずがない。しかし観客はみすぼらしい小男のチャプリンの恋の悩みを笑うのである。チビ、デブ、ハゲ、その他もろもろの普通の人間なら恥ずかしい肉体的欠陥を誇示しながら喜劇役者は演じ、観客は大笑いをする。しかし、大笑いしながらも観客は心のどこかで泣いてもいるのである。喜劇役者のおかしな姿や滑稽な動きを見ながら、ふと自分もこうではないか、自分のどこかに似ているのではないか、自分もこのように滑稽なのではないかと思いあたり、その自分を自分で嘲笑いながら、その悲しさ、その情無さに一瞬涙ぐんだりするのである。 (井上ひさし「喜劇役者たち」山田洋次の解説より) 少林サッカーを見ると涙が出る。なんでこんな映画で泣けてくるんだろう。なんでだろうと思って繰り返し見たがやはり泣けてくる。上記のような理由だったのかもしれない。自分を笑いつつ、泣けてきたのだろう。今回も、なんでもないシーンで涙が出てきて驚いた。この映画を見ると思い出がよみがえってくる。オモチャを買ってもらえなかった思い出。あんなに大きくなかったが、3匹のゴキブリが私の家の中を飛びまわった思い出。蝿叩きで一日に何匹倒せたか記録を作っていたこともある。これは貧乏だったせいでは決してないのだが、足の成長と新しい靴を履きかえるタイミングが合わなかったおかげで私の親指は外反母指だ。お国は違えど、どこか懐かしい気持ちでこの映画を見た。もちろん悪い印象ではない。オモチャを買ってもらえない子供と親のシーンが特に心に残った。子役も真剣、父役も真剣。一対一の真剣勝負だ。客席が静まりかえるほどの演技だ。ベタな設定は、それを真剣に演じるとどうなるか。オモチャを欲しがる子供を叱る親というベタな設定を、真剣に演じるとどうか。子供のために一日中、一生懸命働くベタな親の設定を、真剣に演じるとどうなるか。ベタな設定は、真剣に演じることによって、さまざまな共感を得ることができる。チャウシンチーの魅力は、最新CG、くだらないギャグ、格闘技術、ではなく、当たり前に目の前に落ちているようなありきたりの小さなものではないだろうか。誰もが持っている、つらかったこと、残念なこと、恥ずかしかったことを宝物のように引き出しにたくさん集めているような気がする。見る側にも引き出しは必要で、どれだけ共感できるかは、人それぞれだ。映画全体で、心の貧富を試しているのではないか。ちょっと言いすぎたかもしれない。ただ確実に言えることは、なにをテーマにしても変わらない視点を彼は持っているようだ。 |
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2008年/オーストラリア/94分 監督・脚本:アダム・エリオット 製作:メラニー・クームズ 撮影:ジェラルド・トンプソン 声の出演:フィリップ・シーモア・ホフマン/トニ・コレット/エリック・バナ/ハリー・ハンフリーズ | |
「based on a TRUE STORY(真実にもとづくお話)」とあるが、こういう実話があったのだろうか。ちょっとうさんくさく、作り物めいている。結末の状況も、ちょっとできすぎだし、人工的だ。実話であれば、もっと感動的でリアルで思いがけない結末が用意されていそうだ。個人的には、子供が大きくなって、マックスと文通しだすような結末の方がいいかなと思った。ちょっと調べてみると、実話ではなく、監督が個人的に長年文通をしている体験を基にしただけの話だった。それはともかく、クレイアニメとは思えない、すばらしい完成度のアニメーションだ。相当の集中力と忍耐力が問われる仕事だ。ただ、別にクレイアニメでなければならない必然性はない気がする。実写でもいい気がする。これほどまでに力を入れる必要はどこにあったのだろうか。必然性があるからここまでの映画ができたような気がする。ナレーションと手紙のやり取りがずっと続くので、ひどく単調な物語だ。1対1の会話すら少ない。大部分が、孤独な生活の描写になっている。これほど映画で孤独が表現されているのも珍しい。「人間は面白いけど、理解するのは難しい。でも君のことは理解できて信頼できそう」とマックスが手紙に書く。孤独な人にとっての励まし。素晴らしい友情が描かれている。オーストラリアとニューヨーク。大人と子供。大きな距離があるが、その交流は楽しいものだ。言葉で作られた想像の世界が大きな比重を占める。想像の世界の描写という面では、アニメの必然性があるかもしれない。赤ちゃんがビールの底から出てくるような描写は、実写だとなにかおかしな雰囲気になるかもしれない。ラビオリという目に見えない友達も、アニメの方がいいかもしれない。以下、アニメである必然性を感じたシーン・・・。卵を暖めるラビ。魚がニコチン中毒になる。裸で月に立っている。アールグレイさんとの結婚。天国でのチョコ分配係。脂肪の妖精。脳の笑顔。口をホチキスで留める。写真が回りを巡る。交差する道でコンデンスミルクを渡す。・・・以上。けっこうたくさんあった。想像力こそが、思いやりこそが、重要なのだ。それ以外にも、人間の病的な側面を描写するシーンが多いので、実写だとかなりつらそうな雰囲気もある。だからアニメーションが最適だったのかもしれない。いじめる人間は、いじめる側に対する思いやりや想像力がないからそうなってしまう。想像力がたくさんある人は、想像の世界で遊ぶことができる。人に対しても優しくなれる。想像の世界の描写が生き生きしていれば、世界は平和になれるかもしれない。「君は不完全だ。もちろん僕もね」とマックスが手紙を書く。不完全だからこそ、この世界が成り立っている。不完全だからこそ、この手紙を書く理由がある。彼女への許しでもあるし、世界の成り立ちに対する許しでもある。自分に対しての許しでもあるのだろう。手紙を通じて他者と接しつつも、自分と文通している。そしてどこかで通じあう。実際に会うことはなかったが、確実に交流があった。友情とは、こういうものなのだろう。人間とはこういうものなのだろう。孤独を扱っているのに、対象は広い。文通している監督の個人的な経験が、この映画の手紙の内容に説得力を持たせている。これを見ながら泣くことはなかったが、自分に手紙が届けられたような、個人的な部分に届く、見応えのある映画だった。ナレーションは、絵本の朗読のような雰囲気。英語が全くダメな私にも理解できるような、単純でゆっくりした言葉だったのがうれしかった。英語学習にも最適の映画かもしれない。 | |
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2001年/日本/113分 監督:りんたろう 出演:井元由香/小林桂/富田耕生/若本規夫辺誠一 | |
手塚治虫の原作だが、3DCGと、りんたろうが微妙にアレンジされててライオンキングみたいな触感だった。キャラの絵は似てるけど動きが違う。もっと人間の柔らかい動きが見たかった。セル画数がすくないのかなあ。2Dの背景の絵がものすごく書き込みされていて深みのある画面で良かった。マッドハウスや4℃やイマジカやソフトイマージュは、いい仕事だったのではなかろうか。問題なのは監督と脚本とコンテだ。主役をはっきりさせて欲しい。あれでは誰が主役なのかわからない。主人公に感情移入できなかった。その点、ラピュタを見習うべきだ。あと、全体的に構図が悪い。画面がだんだん黒くなっていって、重要な部分だけ丸く焦点を当てる演出が何度もあったけど、ごまかしにしか見えない。惜しい出来だ。話を説明するのに忙しそうだ。もっと、長回ししてもいいカットは山ほどあったのに。でも、前評判に比べれば、割と楽しめた。ジャズが使われていた場面が良かった。一番感動したのは、ひげおやじの声が昔と変わらない声優だったことだ。 | |
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2000年/フランス/84分 監督:フランシス・ヴェベール 出演:ダニエル・オートゥイユ/ジェラール・ドパルデュー/ティエリー・レルミット/ミシェール・ラロック | |
面白かった。フランスのサラリーマン喜劇。とにかく話のテンポが速い。この歯切れのよさは、監督の芸だろう。ノリがいい。落語を聞いているような気分だ。お隣さんとの友情は、長屋の人情噺みたい。この監督は江戸っ子だ。俳優がいい。乾いた演技で人を笑わせている。大げさに騒いだりして面白おかしく演じないところがすごい。コンドームはフランスの発明品だ。フランスでは1946年までは売春が合法だった。コンドーム産業も劇中の会社のように盛んなのだろう。日本でも去年のゲイのパレードでコンドーム配ってたな。上司と主人公が初めて一緒に夕食を食べたように、堅いビジネス社会をきちんと描いた部分にも、面白さの隠し味がある。 | |
2001年/アメリカ/92分 監督:ピート・ドクター 出演:ジョン・グッドマン/ビリー・クリスタル/メアリー・ギブス/ジェームズ・コバーン | |
今年(2002年)、少林サッカーの次に面白かった。90分に満たない上映時間だが、ちょうどよくまとまっている。他の大作映画でつまらないアップを長々と見せつけられるよりもはるかに楽しい。見た目にばかばかしいことをまじめに取り組む、2人の役者の力も大きい。アイデアが珍しいわけでもない。物語の骨格は、アメリカで無限に作られている警察物の1バリエーションにすぎない。エイリアンが社会に入りこんでいる設定も、「エイリアンネイション」や「プレデター2」など、いくらでもある。笑える部分だけを集めた構成の勝利かな。最初の宇宙船着陸シーンや、自由の女神の使い方やロッカーを開けるラストに感動を覚えた。 | |
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2002年/アメリカ/88分 監督:バリー・ソネンフェルド 出演:トミー・リー・ジョーンズ/ウィル・スミス/リップ・トーン/ララ・フリン・ボイル | |
トトロみたいなモンスターと子供のふれあいに、ドラえもんのどこでもドアを入れた映画。立体的な画面構成が新鮮だった。アメリカアニメって平面的だけど、ここには奥行きがある。どこでもドアを映画に出したのも立体感を際立たせる意味で有効だ。何回もトライアンドエラーが可能だけあって、役者を浮き立たせる意味においてのライトは良かった。キャラがグロい外見だ。私が子供だったらこんな映画絶対見ないと思う。キャラが人間のプロポーションをしていない。手でアニメをつけたのだろうか。作るのに時間がかかりそうだ。今後もモーションキャプチャーを使ってリアルにキャラクターを動かす方向には向かないのだろう。会社を扱ったところに興味を持った。インクではなくて、モンスターランドでも成立しそうな物語だ。競争と組織が明確に区分けされた会社。物語展開に分かりやすい舞台設定が求められた時、会社が提示されたのだろう。確かにモンスター(人種)の多様性は、利潤を上げる限りそこで肯定される。国でなく会社組織が社会を動かしている文化が見うけられる。 | |
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2008年/日本/70分 監督:谷川俊太郎・覚和歌子 写真:首藤幹夫 出演:香川照之/尾野真千子 | |
静かな秋の夜長である。特にすることもないので、なにかに耳を傾けてみたくなり、このDVDを部屋の片隅から取り出す。パンフレットに2人の監督からサインをしてもらった記念品である。70分、1000枚の写真を使用した、写真映画。監督は谷川俊太郎と覚和歌子。尾野真千子、香川照之が出演。もっとも重要な位置づけの写真家は首藤幹夫。抑えた色調が、穏やかな気分にさせる。静止画の羅列。一流の写真家のスライドショーに、音楽やナレーションが入っている感覚。1000枚もの写真が展示された展覧会を見ている状態。だから、退屈ではなく、あっという間に時間が過ぎていく。演技の掛け合いがみられず残念な気もするが、下手な演技を見せつけられなくてもいいのでホッとする。タイムレスな、色あせないことにもなりそうだ。太陽を見る、死んだように眠る、過去という時間に閉じ込める、2人を包み込む大きな光。詩的な雰囲気を、やはり感じる。終盤でヤーチャイカの詩が効果的に使われていて、まさにこのシーンのためにこの映画は存在しているのだろう。身近な感覚でありながら、新鮮なイメージにあふれ、味わい深い映画だった。孤独な男のセルフヒーリングが背景にある。写真の羅列という映画の形式に、このセルフヒーリングが調和している。私も4年間で7万枚ほど趣味で写真を撮ったが、写真という存在そのものも、セルフヒーリング的な側面をもっている。写真がきれいで驚くと同時に世界がこんなにきれいで驚くのだ。見慣れたものが、目新しくなる作用の繰り返しなのだ。 | |
2004年/日本/100分 監督:大谷健太郎 出演:椎名桔平/中谷美紀/妻夫木聡/田辺誠一 | |
落ちついて、手堅くとられていると思うが、これは映画なのだろうか?見ながら違和感が残った。映画にしてはスケール小さいなあ。テレビにしては狭いなあ。結局、脚本だけを考えると、舞台が最も適していたように思う。映像的には宣伝用のホームページも含めて大好き。等身大に感じられるそれぞれの役者にも趣があり、もう一度見たい気にさせられる。詐欺師という、ちょっと離れた世界のキャラクターを描いたのも魅力かもしれない。妻夫木聡はメチャクチャかっこいいので観賞用に最適。演技を見ると、切れ者とダメっぷり、行きと帰りで印象がガラリと変わるような役を演じた田辺誠一が光っている。椎名桔平は、なぜか昔から好きではない。見た目は分かりやすく演じていると思うが、心が動かされない。キスシーンにいたるまでの、一番もりあがる部分を演じていると思うのだが、田辺誠一に比べてとってつけたような性格の両極端がインチキ臭かった。音楽がさわやかで良かった。列車を舞台にしたロードムービーはほとんど見たことがない。旅そのものに起伏がないから、なかなか難しいのだろう。特急で駅が止まらないとか、到着時刻に間に合わないとか列車ならではの枷があったほうが良かったかもしれない。早稲田松竹に何気なく入って初めてこの映画の存在を知った。宣伝方法に疑問が残る。本編にほとんど出てこないぬいぐるみを宣伝に使ったのは、意味があったのだろうか? | |
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